Up 「全道アイヌ青年大会」(1931) 作成: 2017-02-17
更新: 2017-02-17


      貝澤藤蔵『アイヌの叫ぴ』, 1931
    小川正人・山田伸一(編)『アイヌ民族 近代の記録』, pp.373-389.
    pp.388,389
     本年の八月二日北海道の首都札幌に於て第一回の全道アイヌ青年大会がジョンパチエラー氏の肝入りで催されました。
     此の会に馳せ参じたものはウタリ (同族) 中最も智識ある男女七十有余名。 私等が嘗て新聞紙上に読んだ事のある水平社大会に於ける悲痛な叫ぴ、激越なる呪ひの声こそ無かったけれど、何れも熱と力の篭った正義の叫ぴが挙げられました。 其れは社会に向ってと云ふより眠れるウタリに伝ふ覚醒の暁鐘と云ふ様なものです。
     我々は最早眠って居てはならない、本堂に集へる兄弟等よ‥‥、私等は一日でも早く目覚めた事はウタリ等の為めに真に喜ばしい事である、私等は声を揃へて眠れるウタリ等を呼ぴ起さう‥‥と叫ぶ甲青年。
     アイヌ民族が今日尚世人より劣等視せられ差別待遇を受けるのは何故であるかと云ふに、其れは私等の祖先に学問が無かったからである、学問の無い処に文明も無ければ進歩も無い、勿論科学の発生する筈もないのである、此様な時代のウタリに人が空を駈け海中を潜行する今日を予想せしむるのは無理である、況んやウタリ等が日常食物に供せし熊や鹿の無くなる事に於ておや。 けれど我々は最早呉下の旧阿蒙であってはならない、我々は今日立派な教育を受けて居る、若き過去を顧みて明るき未来を建設しなければならない。 兄弟らよ手を取り合って奮ひ起たふ‥‥と叫ぶ乙青年。
     交々壇上に叫ばれる熱火の弁、起きよ、覚めよ、奮へよの雄叫び。 殊に異彩を放ちしは此青年大会に十勝国伏古より馳せ参ぜし八十有余の伏根エカシ、真白なる長髯を胸前にしごきつゝ,アイヌ人を滅するものは酒である、若きウタリ等よ──、酒を廃せ !!,禁酒の二字を明瞭に頭に刻み込んで起たう!と喝破された事でした。
     同族の手に依って乱打された警鐘に、夢破られたウタリ等は奮然と起ち上ったのです。 力強い決心を眉宇に漲らして‥‥‥。