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松浦武四郎『東蝦夷日誌 初編』
鳥頭根に烟草の脂と蜘蛛クルンへ (長五六分水中石につく虫也) と四種を練合して筒に入,腐らし用ゆる,と。
然し是を用ひて取りしは,其肉に毒廻りて動もすれば喰し者に當る故,今は烏頭一味にて製す。
然れば毒の廻り遲けれ共、肉を捨てる所少し,と話しぬ。
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Munro (1938), p.180
トリカブトの毒は、アイヌ語で普通〈スルク〉と呼ばれていますが、この語には「強い弓の毒」という意味が含まれていると考えられます。‥‥‥
このサル(沙流)地方にはトリカブトが山野に自生していますが、なかでもピラトリ(平取) 近くの広い原野では、毒の効き目が強くて狩猟のために好ましいものを手に入れることが出来ました。
この植物を採取してもよい時季になると、まずそのことを〈カムイ フチ〉に願い出ることになっていました。
九月の中旬になると、狩猟の役に立ちそうな株を選んで掘ることが出来ました。
それよりも早い時季にこの植物を採取すると、その年の黍類の収穫が落ちるとされ、定められた時季が来ないうちにこれを採取した者は罰せられていたと言われています。
トリカブトを採取する場所には、〈シランパ カムイ〉(樹木の神) と〈ハシ イナウ ウク カムイ〉(狩猟の神) に向けて、いつもと同じ種類の〈イナウ〉がいつもと同じ数だけ供えられていました。
この神々には、良質のトリカブトが手に入るように、かっその毒で狩猟が成功するようにと祈願することになっていました。
掘り採ったトリカブトの根はヨモギ(蓬)の葉に包み、家屋内の梁に吊して乾燥させておきました。
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エゾトリカブト
アコニチン
引用文献
- 松浦武四郎『東蝦夷日誌 初編』
- 吉田常吉[編]『蝦夷日誌 上 東蝦夷日誌』, 時事通信社, 1984.
- Munro, Neil Gordon (1938) : B.Z.Seligman [編] : Ainu Creed And Cult, 1962
- 小松哲郎[訳]『アイヌの信仰とその儀式』. 国書刊行会. 2002
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