運上屋でのアイヌの稼ぎは,つぎのしくみなっている:
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串原正峯 (1793), p.491
海鼠引漁は圖のことくなる海鼠引網を夷船に乗せ、海上へ乗出し、兼て見立置たる海鼠のある所にて此網をおろし、縄の先に圖のことくなる木の碇を付置、是を最初の所へおろし、凡百間斗も舟を漕行て網をおろし、網に付たる縄の端を船の櫨へ結ひ付、夫より碇の縄を手にて操り、最初の所へくり寄て網を船の中へ引揚るなり。
能き泙合にて當り漁の時は、一網に百二、三十も引揚るなり。
終日引て、壹人にて能漁の節は貳千程も取る事あり。
‥‥‥
其日引たる海鼠を 水海鼠と云。未いりこにせず,引上たるまゝなり 船に積たる儘にて運上屋敷の濱邊へ漕来る。
‥‥‥
其日の引高に應し
五百以上引たる夷へは酒壹盃づつ、
千以上引たる夷へは貳盃づつ、
右の高引たる夷の腕に矢立の筆にて書記し遣せは、夷會所へ行て腕をまくり見する故、夫を證據に右のにこり酒褒美に呑する事なり。
是此度出役先の思ひ付にて、はげみの為如レ斯せしなり。
‥‥‥
扨夷とも改を請て水海鼠を我家々々へ持行、または濱邊にても
直に大鍋に湯を涌し、引揚たる儘にて鍋へ入しばらく煮る。
煮上りて是を引上、長壹尺斗の串を拵、
夫へ十つゝ串柿のごとくに通し、
十本 [10 × 10 = 100] を一連として圍爐裡の上へ釣し、
四、五日も乾し上け、又は日當りにでも干すなり。
十連にていりこ数千なり [100 ×10 = 1000]。
束となして會所へ持来る。
‥‥‥
交易は煎海鼠百に付玄米五盃、但し壹盃は貳合五勺入椀なり。
[煎海鼠百 〜 玄米 一升貳合五勺]
酒なれば右の椀にて三盃づつ、
[煎海鼠百 〜 酒 七合五勺]
其外の品と交易なすにも右に准したる價なり。
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「能き泙合にて當り」「終日引て、壹人にて能漁の節は貳千程も取」った者が,これをすべて製品加工したときは,
[煎海鼠百 〜 酒 七合五勺]
の交換だと
(七合五勺) × 20 = 15 升
の酒を得ることになる。
この計算は,頭によく入れておくべきである。
というのも,「運上屋」は,アイヌを被虐者に仕立てたい「アイヌ学者」が「搾取・極悪」を捏造するところだからある。
彼らのやり口は,インチキ計算である。
つぎの交換表を例にしよう:
玉蟲左太夫 (1857) より:
安政四年サル場所アイヌからの買上げ・売渡し価格表
アイヌからの買上げ価格 |
品目 |
単位 |
価格 (文) |
煎海鼠 |
1ツ |
1 |
干鱈 |
1束 |
90 |
干粕 |
1束 |
150 |
干鮫 |
1束 |
56 |
魚油 |
1升 |
100 |
昆布 |
1駄 |
35 |
椎茸 |
1ツ |
1 |
アツシ |
1反 |
275 |
生榀皮 |
1貫目 |
28 |
榀縄 |
1把 |
25 |
椛 |
1貫目 |
14 |
鹿皮 |
大1枚 |
500 |
上飼鷲尾 |
1尻 |
300 |
穴熊胆 |
1匁 |
280 |
上獺皮 |
1枚 |
500 |
上狐皮 |
1枚 |
200 |
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アイヌへの売渡し価格 |
品目 |
単位 |
価格 (文) |
玄米 |
1升 |
56 |
清酒 |
1升 |
200 |
濁酒 |
1升 |
56 |
麹 |
1升 |
90 |
地廻煙草 |
1把 |
90 |
田代 (庖丁) |
1挺 |
250 |
間切 (小刀) |
1挺 |
28 |
夷椀 |
1ツ |
35 |
小針 |
1本 |
4 |
火打 |
1ツ |
28 |
鎌 |
1挺 |
100 |
行器 |
1ツ |
5500 |
行器 (蒔絵付) |
1ツ |
7500 |
中古手綿入 (古着) |
1枚 |
200 |
半股引 |
1足 |
650 |
手拭 |
1対 |
280 |
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「アイヌ学者」は,この表をつぎのように読ませる:
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門別町史編さん委員会 (1995), pp.416-418
アイヌからは安く買上げる一方、アイヌへの売渡しにおいては、
例えば清酒1本を手に入れるためには
煎海鼠なら 200 個、
干粕だと 27 本 (1.7 束) 、
昆布だと25920貫=約 5.8 駄
が必要となり、
男性の会所での1日の労賃米は1升、56文であるから、
約 3.6 日分、
これは中程度の古着綿入1枚、あるいは白い下帯1本でも同じで、
漁場稼ぎだと上男で
4日半分、すなわち5日間
稼がなければならない。
同様に、前記「入北記」で "永代張" と記されている
キセル一本にしても、漁場稼ぎでは上男でも
2日間
の稼ぎでは足りない。
ましてやアイヌにとっての宝器となった "行器" は、
安くても干粕で 735 本(36束15本)、
昆布で156駄3貫600匁で、
会所労働でも
96 日分、
漁場稼ぎでは
122 日分
の稼ぎでも足りない状態で、
高価な商品を買わされているといえよう。
以上のことからも、アイヌは日常生活における労働力、それも低賃金労働力としてのみならず、交易においても場所請負人の独占的な支配の中で、出産物は安く買上げられ、その反面物資購入においては高く買わされるといった、二重三重の搾取の中におかれていたといってよいであろう。
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「アイヌ学者」がここでやっているのは,「日給あたり」計算である。
アイヌ女性の運上屋労働だと日給制もあるが,漁撈に就くアイヌは日給制ではない。
獲った生ものを製品加工し,それを運上屋に買い取らせる。
このときの買上げ価格が,上に示した表のうちの「アイヌからの買上げ価格」である。
「能き泙合にて當り」「終日引て、壹人にて能漁の節は貳千程も取」った者が,これをすべて製品加工して酒と交換すると,15 升を得ることになった。
しかし「アイヌ学者」計算だと,15 升の酒を得るには
(3.6日) × 15 = 54日
働かねばならないことになる。
引用文献
- 玉蟲左太夫 (1857) :『入北記』
- 『入北記 蝦夷地・樺太巡見日誌』, 北海道出版企画センター, 1992.
- 門別町史編さん委員会 (1995) :『新門別町史(上巻)』, 門別町, 1995
- 串原正峯 (1793) :『夷諺俗話』
- 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻 探検・紀行・地誌・北辺篇』, 三一書房, 1969. pp.485-520.
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