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知里真志保 (1949), pp.79,80.
アイヌ固有の舟といたしましては丸木舟であります。
これにわき板のついたのがモチプとか、イタオマチプとかいうもので、そのわき板のない、いわゆる「たななし小舟」に当るものがチプで、これが近代におけるアイヌ生活における最も普通の舟であったようであります。
この他にヤッチプといって山狩の獲物が多かった際、臨時に大木の皮を剥いで両端を折り畳んで舟型にし、木皮の紐で綴り、木の枝で補強したものを石狩川などでは用いていました。
この作り方に暗示を与えたろうと思われるのは皮舟、すなわちトントチプであります。
これは北海道アイヌが実際に用いたという現実の証拠は見当りませんが、北海道各地の古い説話の中に出てくるものであります。
たとえばそれが昔話の中には鬼の宝物となっていて、畳んでいたのをひろげて海に浮かべると千里を走る、などと伝えられているのであります。
千島のアイヌはこれを現実に知っていたらしいことが古く文献に見えております。
辺要分界図考という本に、ラッコ島の夷人(たぶんアレウトかと思いますが)キモヘイという者がウルップ島へきて、その本国の舟を作った。
その作り方は「舟をトドの皮にて張り、袋の如くこしらえ、中には木の骨を入れ、夷人一人乗って、袋の口をしめきり、水のはいらぬようにし、かいにて左右へかき走り、陸へ上れば骨を去り、皮は畳みおく」というのであります。
それをウルップ島のアイヌがトンドチプといったとあります。
またクナシリ島の酋長ツキノイが「クルムセの舟は皮袋のようで、鳥の浮かぶのに同じだ」といったとも書いてあります。
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村上島之允 (1809),「五 (續造舟の部)」から引用:
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