Up 家柄・学業成績の優等 作成: 2016-12-21
更新: 2016-12-21


    「アイヌを代表して」のスタンスは,家柄・学業成績の優等と正の相関がある。
    なぜこのように言えるのか。
    「アイヌを代表して」のスタンスをとる者は,自分の著作の中で,自分の家柄・学業成績の優等を書く。
    あるいは,彼らを持ち上げる書き物は,その中で彼らの家柄・学業成績の優等を書く。
    「家柄の優等」の表現は,「コタンの長 (コタンコロクル) の家系」である。

    なぜ,家柄・学業成績の優等を書くのか。
    自分を相手に信用させるいちばん手っ取り早い方法が,家柄・学業成績の優等を示すことだからである。


    学業成績が家柄と関係していることは,アイヌ,"アイヌ" の場合も同じである。

    コタンの長には,能力の高い者がなる。
    時代の変化に際しては,先見の明が利く。
    そして,能力の高いから,他の員より,財力も強い。
    そこで,子どもを学校にやる。
    「<和人に同化>が,子どものためになること」と考えて,子どもを学校にやるのである。

    その子どもは,親の DNA を受け継いでいるから,能力が高い。
    「同化教育」によって,めきめき才能を伸ばしている。

    「同化教育」は,"アイヌ" の間に,和人スタンダードでの能力格差をつくる。
    エリート"アイヌ" は,「同化教育」のたまものである。


     鳩沢佐美夫「遠い足音」,『山音』, 第38号, 1964.
       『沙流川─鳩沢佐美夫遺稿』, 草風館, 1995. pp.45-151.
     以下,『沙流川─鳩沢佐美夫遺稿』から引用:
     
    pp.122,123
     休み時聞に、校庭に出て遊んでいた為男は、用事を思いたって、教室に戻って来た。 と、誰もいない教室に、ミサ子だけが残っていた。 ミサ子は、教室の中央にある石炭ストーブの前に、椅子を持ち出して坐っていた。
     為男は、何故か、カッカッと、してきた。 入口のところに突っ立っていたが、
    「どけれ!」と、思わず怒鳴り散らした。
     ミサ子は、びっくりしたように振り返った。 が、ニッと笑みをつくっただけで、動く素振りさえしなかった。 見ると、なにをするのか、デレッキをストーブの小窓から、火の中に刺し込んでいる。
     為男は、足音も荒げて側に寄った。
    「火焚くから、どけれ」
     と、言って、押しのけようとした。 がミサ子は、それに逆う態度を見せた。 為男は、いよいよ我慢がならなくなった。
     ミサ子の持っているデレッキをむしりとると、それでいきなり、彼女の頭を叩きつけた。 いいかげんに焼けたデレッキなので、ミサ子の髪の毛は、ジュッと焦げた。 ミサ子は、一瞬キョトンとして、為男を見やっていた。 が、ヒーン、ヒーンと、声を上げて泣き出した。
     為男の全身は、小刻みに震えて、止まらなかった。
     父親も母親もいないミサ子は、ときどきしか、学校へ来なかった。 父親が脳をわずらって、病院に入れられると、母親がどこかへ逃げてしまった。 父親も、病院へ入れられたまま、数年前に亡くなっていた。 ミサ子は、祖母のウエルパに、弟の文男といっしょに、育てられているのであった。 そんな話を、為男は、誰かから聞いて知っていた。
     学校へ出て来ても、ミサ子は、ほとんど勉強をしているふうではなかった。 ぼんやりと、ただ黒板を見やっていて、ときどきコックリ、コックリ居眠りをしていた。 身装りも貧しく、髪の毛はだらりと、のびたままであった。 誰かが話しかけたりすると、その髪の下から不安そうに見ていてから、ニッと笑って、大き目の糸切り歯をのぞかせる。
     女生徒たちは、ミサ子と、机を並べることさえみな厭がった。 そんなミサ子を、為男はなんとなく、可京想に思ったりして見ていた。 が、いつからか、憎むようになったのであった。
     為男は、教室に入ろうとして、ミサ子を見かけたとき、思わず立ち竦んだ。 以前に──おまいなんか、ミサ子でないか──と、噛われたときのことを思い出したからであった。 あのとき、もしミサ子が側にいたのなら、叩きのばして──ぼく、ミサ子なんか、大嫌いなんだと、みんなの 前に、叫びたかった。 その出来事は、雪の解けかかった校舎の周りを、掃除していたときであった。‥‥‥

    pp.126-128
     それからというもの、為男は、ミサ子が憎らしくて、憎らしくてたまらなかった。 アイヌ!と言われたこと以上に、薄汚いミサ子と、対比させられたことが悔しいのであった。
     為男に殴られたミサ子は、いつまでも泣きじゃくって止めなかった。 そのうちに、授業の鐘が鳴って、級友たちがどやどや教室に入ってきた。
     泣いているミサ子を見ると、
    「どうした?‥‥‥」と、側に集まった。
     為男は、理由を説明する気にもなれなかった。
     皆に囲まれると、ミサ子は、ヒーンヒーンと泣き声を引きずりながら、教室から出て行った。
     そのうしろ姿を見ると、為男は何故か──もうミサ子は、学校へ来ないな──という気がした。
     授業が始まって少し経ってからであった。校長が教科書を読み上げているとき、ガタガ夕、教室のガラス戸がゆすぶられた。 為男はびっくりして、入口のほうを見やった。 そこには、血相を変えたミサ子の祖母のウエルバが立っていた。 校長は、教科書を置いて、入口のほうに歩み寄った。 戸を開けるなり、
    「なして、オラのミサ子ば、みんなで泣かしたんだ──」
     と、いう声が教室に飛び込んできた。
     校長は、気押されたように、
    「そんなこと、知らん」と、のけぞった。
     ウエルパは、いまにもつかみかかるように、
    「ミサ子が、泣いて戻って来たんでないか」
     と、校長に詰め寄った。
     校長は戸惑ったように、ロをもぐもぐさせた。
    「アイヌだとおもちて、パカにこくな──」
     齢をとっているウエバなのに、体には鋼でも入っているような感じであった。
    「し、しらん! 知らん」
     と、校長は、一、二歩後退した。
    「なしてオラのミサ子ばかり、いちもいじめるんだ──」
     と、ウエルパは、なおもせまった。
     校長は、いまいましそうに、
    「知らんたら、知らん」と、言って、ウエルパを押し返し、教室の戸をびしゃんと閉めてしまっ た。
     校長に怒られるな‥‥‥と、為男は思った。 黒板の前に戻ると、校長は、眼鏡をはずし、ハンカチで拭いたりしている。 その顔を、まともに見ることができなかった。
     が、意外なことに、教科書を取り上げると、さきほどのつづきを読み始めた。 為男は、安堵する間もなく、こんどはウエルバのことが気にかかり出した。 ウエルバは、拳を固めて、ガラス戸を叩きつけるような恰好をし、何事かを喚きたてている。 教室に飛び込んで来るのでないか、と、為男はそればかりが、気がかりであった。
     ウエルバは、薪を背負って、よく学校の横を通る。 学校の横には、山へ通じる一本の道路がある。 枯木を拾いに行って、一と抱えぐらいの束をつくると、ウエルバは山を下って来るのであった。
     それを見かけると、
    「ウエルパ!ウエルパ」
     と、生徒たちは、小馬鹿にした。
     が、ウエルバはいつも、早足に歩み去っていた。
     ある日に誰かが、
    「ウエルパ!」と、小馬鹿にして、小石を投げつけた。
     するとウエルパは、背負っている薪を投げ降し、中から一本引っこ抜くと
    「誰だ!」と、振り上げて来た。
     みんなは、ワーイ、ワーイと、囃したてながら、教室に逃げ込んだ。 裸足のウエルパは、どんなに怒っても、教室には入って来ないからであった。
     そんなウエルバを、為男は、恐しく感じて見ていた。 しばらくの間、ウエルパは何事かを喚いていて、教室の前を離れなかった。 が、相手にされないと識ってか、苛立ったうしろ姿を見せて、引き退って行った。 為男は、やっと溜飲を下げるような思いになった。 が、何故か、校長の教科書を読み上げる声が、耳に入らなかった。 ウエルパも、泣いて戻ったのでないかな‥‥‥と、思っていたからであった。