Up 官営 (社会主義経済) の考えに釘を刺す 作成: 2019-02-24
更新: 2019-02-24


    「幕府直轄」を場所経営にそのまま適用すると,「官営」ということになる。
    この場合,いちばんにすることは,アイヌとの交易レートを定めることである。
    これは,交易レートの一律化ということになる。

    交易レートを定めようとするときの官の立場は,従来型を不徳としてこれを是正するである。
    官が徳──社会正義──を垂れるというわけであるから,このとき展開される経済は社会主義経済である。

    最上徳内は,状況がこのように推移する場合を警戒する者である。
    そこで,この流れに釘を刺そうとなる。

    最上徳内が「官営」を却けるロジックは,一つは,この流れは机上の論をつくることになって,現場に混乱が起こる,である:
      最上徳内 (1800a), pp.142,143
    東蝦夷御用地となり法を改る事にて、前々の仕来(しきたり)は取用にもならぬ趣にて、州もなき様に推挙して申立もせらるれども、新しき(あじわ)い計りにては利かぬ事もあるべし。
    酒は酒の味いにし、酢は酢の味いにするをよしと言う。
    酒に苦味を付て新法なりとても、買に来る世上にて合点せぬ事なり。
    蝦夷地に新法を(のり)し、是を趣意なりとするも、旧染(きゅうせん)の蝦夷ども服従はせぬものなり。

      最上徳内 (1800b), pp.150
    蝦夷地御益筋の儀は 当分彼地取開の心得可被成(なさるべき)儀に奉存候 ‥‥‥
    会所等其外取扱は 格別相改新規に被成(なされ)候ては 手元の者通詞番人配方等大勢不行届 其内迷惑仕候者も不少 既に咎を請候同様の者も出来仕候

    もう一つのロジック──こちらの方が本質的であるが──は,そもそも経済とはそんなものではない,である。
    規則はたちまち抜け穴がつくられるし,一律買い上げは交易のメリットを損なう:
      同上, pp.150,151
    御交易永続の積りにて 新法御取(きめ)も御座候ては 決て蝦夷人服従し間敷奉存候
    其訳は 交易は民と利を争ふ道にて 繁栄仕候に従ひ 猶気位不宜
    日本地僅の御買上長崎御用の俵物にても ((値))段引上等願出 或は抜荷売買可仕 厳敷(きびしく)御咎に逢候ても 今に相止不申候
    聊の煎海鼠二三種にて 如此に御座候
    別て 蝦夷人田畑無之 年中の渡世は荷物(ばかり)に御座候処 一式御買上に相成候ては 乍恐公儀を恨み可申儀も可有之奉存候


    引用文献
    • 最上徳内 (1800a) :『蝦夷草紙後編』
      • 須藤十郎編『蝦夷草紙』, MBC21/東京経済, 1994, pp.117-149.
    • 最上徳内 (1800b) :「蝦夷地の儀に付存寄候はゝ無遠慮可申上様被仰聞候 依て御含にも可相成と奉存候儀仰に随ひ無遠慮相認可申上候 書付」
      • 須藤十郎編『蝦夷草紙』, MBC21/東京経済, 1994, pp.150-153.