Up 吉田菊太郎 1896-1965 作成: 2019-10-21
更新: 2019-10-21


      高橋真 (1946), p.245
    保護法は存続すべきだ
    吉田菊太郎氏の意見
    全道の模範部落として侍従差遣の光栄を有する十勝国白人アイヌコタンを築いた偉人吉田菊太郎氏は戦争中村会議員等の政治的方面から遠ざかってゐたが、同村各ウタリー部落民の要望で此の程幕別村農業会理事選挙に立候補、三〇一票の高点で美事栄冠を得たが更にウタリー達は道会に吉田氏を推すべく協議中である。
    本所が「旧土人保護法の存否」に就ての輿論調査に対して左の如き意見を寄せて来た。
    「保護法は存続すべきである」之です。
    然し乍ら此の保護法なるものがこのまゝ眠ってゐるようではウタリーの為大した有難味もないから、もう少し積極的に運営すべきであり、活用すべきであると思ふ。
    然るにウタリーの中で一部の学者が「保護法は廃止すべきだ」と強調してゐる向きもある様だが一万七千のウタリーの中で若干の自覚者があるからとて
    一万七千のウタリーの為に設けられた保護法は撤廃すべきものではない。
    望むらくはウタリー全体が自他共に認められ即ち物心共に安定した時に始めて自然と保護法の存在を必要としない時期の来る事を念願してゐるものである。
    一万七千の内五分や一割が恵まれた生活をしてゐるからとてそれを以って保護法が不必要だと云はれるものでない。
    恵まれた生活をしてゐるウタリーは幸だから何も保護法に頼る必要もなし保護法の存否を云々する必要ないのだ。
    要は「少数でもまだ保護する必要のあるウタリーの存在して居る間は保護法は必要だ」との結論である。
    尚附言するならば、自分はモウ一人前になったから保護法は不要だとウヌボレテ居るアイヌさん達は保護法の存否に言及する事なく保護法が存在してゐるからとて邪魔とも思はないで水平線上で大いに活躍したらよいだらう。 (つゞく)


  • 参考文献
    • 高橋真 (1946) :『アイヌ新聞』第三号, 1946-04-01
      • 所収:小川正人・山田伸一(編)『アイヌ民族 近代の記録』「アイヌ新聞」, 草風館, 1998. pp.234-276

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