アイヌ人物紹介
北の光(創刊号)
北海道アイヌ協会
昭和二十三年十二月十日発刊
本会の線上に活躍するアイヌ人の人物を側面より捕え来つて描録したるもの。数多い人物を一時に紹介する訳に行かぬのを遺憾とする。余の分は号を追つて紹介する>
- 向井山雄
伊達町の人。立教大学出身の牧師。町議。漁業組合長を歴任。現協会(北海道アイヌ協会)理事長。弁論の雄、往時は此の道の闘将、横紙破りでもあつたが、近時は人為(ひととなり)円熟して円満なる好紳士。本道一万七千のウタリーの頭目は君を措いて他に求むるを得ず。
- 小川佐助君
日高浦河町の人。全国競馬界の明星。本会の常務理事。アイヌ族には珍しき粘り気と政治的肌合を有す。大胆にも見ゆるがまた一面相当線の細い点も見ゆ。本会の台所を背負つて本会に重きを為せる所以も茲(ここ)に存するか。
- 森 久吉
本道の華街登別温泉場にある本会の唯一の社会施設温泉療養所の所長。いつもニコ/\として幼童もなずかしむる風貌は社会事業に打つてつけの人となりであり、又以て世人君に親しみと好感を持つ所以。
- 江賀寅三
静内町の人。本会理事。常に黙々として事務を処理す。同族には珍しき事務家。今後の日本には君の如き寡言実行の人を求むるや切。
- 辺泥和郎
鵡川村の人。雄弁にして奇才又縦横、本会監事として本会の大目付役。喧(やかま)しき御仁、蓋しはまり役か。されど吾人は君をしてウタリーの線上に上すは当らずと思われる。
- 森竹竹市
白老の人。雄弁にして熱の人。一度意気に感ずれば、猪突停まるを知らず、半面処女の如き繊細の情緒を蔵し、春夏秋冬星帰り物変る自然の現象に対しても詩情を燃やす。其の著又数種。好漢惜しむらくは短気の性が玉に疵(きず)。
- 知里高央
幌別村の人。小樽高商出身。頭脳明晰白面の紳士。君アイヌ族たることを気にする如きも世上果して君を目してアイヌ族と見るもの幾何ぞ。
- 佐茂菊蔵
豊浦町の人。木材業。佐茂長官として君の名は天下に聞ゆ。口も達者、手も達者、押しの一手は鬼千匹。されど御仁は君をしてアイヌ族の線上に上す能はず。名の如く御身はしやも。
- 椎久賢市
道南八雲町の人。君は既にウタリーの部類を逸脱したる人。されど毎年欠かさず本会の会合に出席して黙々としてコタン同族の為に聴従す。以て君の人格を知るに足らんか。
- 浦川太郎吉
荻伏村の人。熱心なる指導者。コタンウタリーの為に精米所、莚(むしろ)織等の授産場を建設して経済保護に努む。今回其の治績を認められ、道内に先駆して表彰の栄誉を受く。是偏へに君の努力の結晶ならんか?
- 貫塩喜蔵
道東釧路国白糠村の人。町議、漁業組合長、本会理事を歴任。雄弁界の明星。本道十一州四百万の道民中演壇の人として君の右に出ずるもの果して幾何。道東の一角に幡居し、中原に鹿を追はんとす。好漢自重自愛将来の大成を望むや切。
- 中村朝四郎
音更村の人。祖先代々の素封家の出身。大胆にして杜交家、口も八丁手も八丁の切れ者。将来を嘱望すること大なり。但だ慾を言えば物ごとに対して後始末を為さゞるが玉に疵。
- 鈴木キヨ
本会音更村支部婦人部長。度量大にして愛嬌たつぷり。社交界の花形。彼女にして若し男子と生まれたらんには、アイヌ族界の大立物として斯界に重きをなしたることならん。嗚呼吾人は天の配済を憾みとす。
- 広野 守
十勝の首都帯広の支部長。本会理事。寡言沈着の青年紳士。素封家に生れ界隈の信望をあつむ。借むべくは押しの不足か。
- 山川勝政
芽室の人。明朗活達にして又雄弁の声高い。目先も利いて世渡りも又上手。本会の事業君が努力に俟つべきもの多からん。之が附託に副ふべく信念言動に忠実たれ。
- 土田豊三郎
池田町高島の人。北海道旧土人保護地確保聯盟の委員長。十勝千三百名のウタリーの大御所。円満なる性格の持主にしてよく人を容る。以て今日ある所以か。
- 川村兼登
旭都郊外近文の人。石狩アイヌの大酋の家に生る。喧しき近文コタンの指導者として常に荊棘の道を歩む。されど聞くならく近文コタンを捨てゝ今更ら神威の山中に引籠りアイヌ村を建設して原始生活を営むとは如何?一寸吾人合点がゆかず。
- 沢井初太郎
本別の人。寡言実行の人。フラチナイコタンの出来事は事の大小を問はず君の手を煩はさざるはなし。以て日常君が煩瑣振りを察すべし。今や大邸宅を営んで名実共にウタリーの道標たらんとす。好漢自愛せよ。
- 小川長次郎
帯広の人。着実穏健たる篤農家。コタン同族の為に常に心胆を砕く。其の蔭に女丈夫カヨ子夫人の内助の功も又大。裁判所の小作調停に打つて出で、相手方を一喝したるカヨ予夫人の意気は良人を凌ぐこと数里。
- 早川ミヨ子女史
かくれたる節婦の一人。音更村の人。稀に見る謙譲の仁。良人に死別し、数人の子を抱えて克く苦闘家産を治む。而して吝薔に偏せず、道徳と経済の節度宜しきを得て信を蒐むること厚い。
- 結城庄太郎
釧路春採の産。一言居士。農委。此の地方の立役者。言う処傾聴に値ひするものなきにあらざれど所信一貫せざるを悲しむ。
- 文字常太郎
豊浦村の人。材木商。町議。大財閥。ウタリー中稀数の実業人。希くば本会事業の上に君の経済的手腕を振はれん事。
- 吉田菊太郎
幕別町の人。町議、農業会長。本会副理事長を歴任。同町ウタリーの為に幾多の足跡を残せしが、不幸病の為に凡ゆる公職を辞し、静かに病を養ふ。吾人は彼氏の快気の一日も早からんことを祈る。
- 八重バチラー女史
バチラー翁の養女。曾てはウタリー界に咲いた花一輪、バチラー翁逝いて以来札都を退き有珠に閑居、悠々余生を児童保護事業に託す。貴婦人希くばひがむ勿れ。
- 山川 登
帯都の郊外伏古コタンの若人。旭明青年会長。同族和衷共同の企図し、雄図を抱いて起つ。意気洵に壮、将来の大成を祈る。
- 大河内徳右衛門君
鵡川村の産。自由党の鵡川支部長。ウタリー界の政治家。元気もよい、押しも強い。希くば互譲を欲す。
- 山本多助君。
釧路市春採の産。現在帯都の北方民芸社長。対外貿易の見返り品としてアイヌ細工を製作。人格円満才知又秀ず。吾人は君が前途に多大の望むを嘱す。
- 山川広吉君
幕別町相川の産。着実なる農業家。目先も効く。人を視るの明もあり、今や家産を治め地方に重きを為す。
- 学田清太郎君
日高静内町の人。温厚篤実なる精農家、今後の社会は君の如き精農家を求むるや切。
- 丸山武雄君
北見の国は美幌の産。現在帯都の郊外に閑居す。口も達者手も達者、識見又人に秀いづ。常にウタリーに対し家畜を唱導す、蓋し至言なり。今後ウタリーは君が言う如く混畜農業にあらざれば一家を支ふる能はし。
- 西川幾久蔵君
音更村の人。日夜私事を抛ちてコタン同族の為に公僕の任務を尽す。君の如きはかくれたる救世主の一人なり。コタン同族たるもの公僕の努力を省み、抛たれたる家庭の空虚を補へ。
- 鹿斗才斗君
門別村の人。本会の副理事長。偉大の体躯、荘重の態度、往昔のシヤクシヤインの俤に髣髴たり。本会の副理事長としての貫禄又充分。乞ふ今後本会の事業に一段の努力を。
- 高橋 真君
知る人ぞ知る、北海道アイヌ研究所長、十勝アイヌ協会長、農民新聞主幹。年齢未だ三十歳に達せざる若輩乍ら文筆、口舌共に秀いで、殊に近頃めき/\と冴えを見る。ウタリーの諸問題は将来君に期待する処大。好漢願わくば所信に忠実なれ。(まだ/\人物は浜の真砂程ある。順次号を追ふて紹介する。)
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