< 川村兼一
- 旭川アイヌ協議会 アイヌ・ラマット実行委員会共同ブログ
- 「先住民族アイヌの権利回復を求める団体・個人署名の要請」, 2009, 旭川アイヌ協議会等
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2009年6月25日
内閣総理大臣 麻 生 太 郎 様
内閣官房長官 河 村 建 夫 様
アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会
座 長 佐 藤 幸 治 様
旭川アイヌ協議会
アイヌ・ラマット実行委員会
私達、旭川アイヌ協議会は、チウペツコタン(旭川)において先住民族アイヌの伝統文化の継承や権利回復を目的に活動しているアイヌ民族団体であり、アイヌ・ラマット実行委員会はアイヌ民族と日本人労働者・市民で構成され、アイヌ民族の権利回復に連帯することでアイヌ民族と日本人が対等・平等で人間的な信頼関係できり結ばれることを目的として活動しています。
周知のように、2007年9月13日に国連総会で「先住民族の権利に関する国連宣言」(以下、「権利宣言」)が日本政府も賛成して採択されました。この権利宣言は、支配民族が先住民族に対して一方的に植民地化と同化政策を押し進め、「先住民族の生得の権利、とくに土地、領域および資源に対する諸権利」を奪い併合したことを「歴史的な不正義」(前文第6段)と断定しています。
その上で、この歴史的な植民地支配に対する補償・賠償も含めて「世界の先住民族の生存、尊厳および福利のための最低限の基準」(第43条)として、先住民族の政治的自由を保障する自決権(第3条)を承認し、土地・資源と賠償の権利(第26条・第28条)、民族文化の享有と伝承の権利(第11〜第13条)、教育の権利(第14条)などの権利回復を宣言しています。
この権利宣言を背景にして、2008年6月6日に衆・参両議院で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」(以下、「国会決議」)が採択され、現在、日本政府も内閣の諮問機関として「アイヌ政策に関する有識者懇談会」(以下、「有識者懇談会」)を設置して提言を求めるなどアイヌ政策の見直しを進めています。
アイヌ民族にとって、日本政府、国会がアイヌ民族を先住民族として認めることは幾世代にも渡る念願であり、こうした動きはアイヌウタリを揺さぶりました。しかし日本政府は、今もアイヌ民族を権利宣言に言う先住民族と認めていません。また上記の国会決議では植民地支配・同化政策の事実が全く言及されませんでした。こうした姿勢と歴史認識は、アイヌ民族の奪われた権利の回復を再び先送り・棚上げするのではないかと強い懸念を抱かざるをえません。事実、有識者懇談会の提言は植民地支配に対する賠償問題等は棚上げされ、特別議席を認めず、新法を制定しないなどこれまでのアイヌ政策の枠内での手直しに止まることが明らかになっています。
私達は、過去・現在のアイヌ政策の見直しに際して、日本国家が一方的にアイヌ民族の独立と自由、そして尊厳を奪った植民地支配の歴史を誠実に直視し、それに対する謝罪と賠償も含めて歴史的責任を明らかにすることを何よりも求めます。それは「歴史的不正義」を正すことであり、アイヌ民族の自立と尊厳を確立することばかりではなく、日本国家・日本人がアイヌ民族に対して何を行ってきたのかその正しい歴史認識を取り戻すことにとっても必要不可欠なことです。それこそ、権利宣言に賛成した日本政府の国際社会に対する義務といえます。私達は権利宣言に基づく先住民族アイヌの1日も早い権利回復とアイヌ政策の歴史的転換を希求しており、下記の歴史的経緯を顧みて具体的要求を申し入れる次第です。
先住民族アイヌが現在直面する諸問題は、幕藩体制下による非道な収奪と圧迫に端を発し、とりわけ近代天皇制国家がアイヌ民族との間で一切の交渉を行わずにアイヌモシリ(アイヌ民族の住む土地)を「無主の地」として一方的に併合したことに起因します。アイヌ民族の共有の財産である土地と資源が日本国家に国有化され、その過程で広大な土地が皇室の「御料地」(全道面積の2割強)や日本人移民・企業の分配地として奪われました。また戦後においても、アイヌの給与地が農地改革の対象となって奪われています。この植民地政策が、現在のアイヌ民族の政治的・経済的・社会的苦難に直結しており構造的差別をつくりだしています。
また、いまも日本社会でアイヌ民族を「完全に同化した」「滅びゆく民族」とする民族的蔑視・民族否定が厳然と存在しています。それは優勝劣敗の差別思想に基づいてアイヌ民族を「旧土人」と蔑称し、「保護」の名のもとに同化政策が押し進められ、単一民族国家観(民族的優越感)による皇民化教育が日本人に徹底されたことに起因しています。具体的には、「無知蒙昧」で「生存競争の結果年々減少の傾向」(北海道旧土人保護法制定趣旨)にあると蔑み、伝統的生業である狩猟・漁撈を禁止してアイヌ民族を給与地に封じ込めて農耕民化を強い、民族文化・風習の禁止、創氏改名、教育におけるアイヌ語の禁止など民族絶滅政策とも言うべきものです。そればかりではなく、先住諸民族の存在を無視したロシアとの領土交渉によって「樺太」「北千島」のアイヌ民族が強制移住させられ、開拓使仮学校(東京)への強制連行、御料地に関わる強制移住などアイヌ民族の生活と生命を蹂躙し、コタンを破壊した歴史的責任は消えることはありません。1869年にアイヌモシリに「開拓使」が設置されて侵略支配が本格化して140年。上記のようにアイヌ民族から収奪したもの、強いられた犠牲の大きさは量り知れません。また、さらに諸地域での暴力支配、虐殺などの痛苦な歴史のありようは調査される必要があります。
日本政府は1991年まで「日本は単一民族国家」と国際的にも主張するなど戦後も同化政策を継続し、現在もそのアイヌ政策の誤りがアイヌ民族の民族性の回復に深刻な困難を与えています。こうした中でも、アイヌ民族は同化に抗い先祖の累々たる犠牲のもとで伝統文化と民族精神を継承し、アイヌ民族の誇りをもって奪われた権利の回復と差別撤廃を求めてきました。
権利宣言にある先住民族の権利は、既存の国際法上の「民族」と「人民」に関わる権利と原則を先住民族に差別なく平等に適用したものに他なりません。新たな権利ではなくすでにあらゆる民族に保障されるべき権利として確立しているものです。(第1・2条)日本政府は先住民族アイヌと協議・協力して権利宣言を履行すると共に、適用を保障するための法整備の義務があり(第38条)、(「日本国が締結した条約および確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」日本国憲法第98条2項)、アイヌ民族に対するこの「最低限の基準」の適用にさえ消極的な姿勢は、歴史的責任において到底許されるものではありません。
日本政府は速やかにアイヌ民族を真に先住民族と認めるとともに、アイヌ民族の先住権・自決権を尊重し、歴代の日本政府が採用し現在まで続いてきたアイヌ民族に対する同化政策・植民地政策を撤回すべきです。その上で、アイヌ民族を主体とした協議・協力によって、「保護」「恩恵」ではないアイヌ民族の犠牲への謝罪・賠償も含めて正当な権利回復を行うべきです。そうしてはじめてアイヌ民族との間で対等・平等な関係が生まれ、日本社会・日本人に真の人権と民主主義が醸成され、国際社会において名誉ある地位を占めることができると思います。日本社会のアイヌ民族に対する蔑視、無関心・無自覚さは従来のアイヌ政策が生み出したものであり、アイヌ政策は早急かつ根本的に転換されなければなりません。私達は、こうした趣旨から下記の要求を申し入れます。なお、この要求は旭川アイヌ協議会の総会で決議されたものであり、アイヌ・ラマット実行委員会も全面的に支持するものです。
記
(1)日本政府及び天皇は、アイヌモシリ植民地支配・同化政策の歴史的な責任を認め謝罪を行うこと。
(2)日本政府は、先住民族アイヌの生得の権利、とりわけ土地、領域、資源を奪ってきた賠償として5兆円を支払うこと。また、アイヌ民族に対する強制移住、強制連行、さらに虐待・虐殺などの人権侵害についてアイヌ民族の関与する被害の調査の上、その歴史的責任に対して賠償を行うこと。
(3)アイヌ民族に対して、アイヌモシリの国有地・公有地と天然資源を返還し、漁業権・狩猟権・伐採権などの権利回復を行うこと。いわゆる「北方領土」に関してアイヌ民族の自決権を認め、その他のものも含め原状回復の困難な土地・天然資源の利用に関しては国の責任で代償措置をとること。
(4)国会と地方議会にアイヌ民族の特別(民族)議席を設けること。
(5)日本政府は、アイヌ民族が自主的に運営を決定し、幼児期から高等教育までアイヌ語を中心にアイヌ文化・歴史等を学べる教育機関を設置してその財政的保障を行うこと。日本の公教育機関で、アイヌ民族の言語を学べ、アイヌ民族の立場からその歴史と文化への正しい理解を醸成する系統的な教育カリキュラム・制度を保障すること。
(6)全国のアイヌ民族の実態調査を行い、アイヌ民族の先住権・自決権に基づく施策を保障するアイヌ民族法を制定すること
(7)日本政府は、アイヌ民族の墓地を荒らした遺骨収集の経緯を調査するとともに、その返還を速やかに行うこと。当該(返還)地域に納骨堂を国の責任で建設すること。
参考資料(外務省訳から抜粋)
United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples 先住民族の権利に関する国際連合宣言 (2007年9月13日採択 A/RES/61/295)
先住民族が、特に植民地化並びにその土地、領域及び資源の奪取の結果として歴史的に不正に扱われてきたこと、それによって特に自己のニーズ及び利益に合致する発展の権利を行使することを妨げられていることを懸念し、
第一条 先住民族は、集団又は個人として、国際連合憲章、世界人権宣言及び国際人権法において認められるすべての人権及び基本的自由を十分に享有する権利を有する。
第二条 先住民族及びこれに属する個人は、自由であり、かつ、他のすべての民族及び個人と平等であるものとし、その権利の行使に当たり、特に先住民族出身であること又は先住民族に属することに基づくいかなる差別も受けない権利を有する。
第三条 先住民族は、自決の権利を有する。この権利に基づき、先住民族は、その政治的地位を自由に決定し、並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する。
第十一条
1.先住民族は、その文化的伝統及び慣習を実践し、及び再活性化させる権利を有する。この権利には、過去、現在及び未来にわたる先住民族の文化の表現(例えば、考古学上の及び歴史的な遺跡、工芸品、意匠、儀式、技術、視覚的芸術、舞台芸術、文学)を維持し、保護し、及び発展させる権利を含む。
2.国は、先住民族の自由な、事前の、かつ、情報に基づく同意なしに、又は先住民族の法、伝統及び慣習に反して奪われた文化的、知的、宗教的及び精神的財産に関し、当該先住民族と連携して設けた効果的な仕組み(原状回復を含む。)を通じた救済を行う。
第十二条
1.先住民族は、その精神的及び宗教的な伝統、慣習及び儀式を明示し、実践し、発展させ、及び教育する権利、その宗教的及び文化的な場所を維持し、及び保護し、並びに干渉を受けることなくこのような場所に立ち入る権利、その儀式用の物を使用し、及び管理する権利並びにその遺体及び遺骨の帰還についての権利を有する。
2.国は、関係する先住民族と連携して設けた公正な、透明性のある、かつ、効果的な仕組みを通じて、自国が保有する儀式用の物並びに遺体及び遺骨へのアクセス又はこれらの返還を可能にするよう努める。
第十三条
1.先住民族は、その歴史、言語、口承による伝統、哲学、表記方法及び文学を再活性化し、使用し、発展させ、及び将来の世代に伝達する権利並びに社会、場所及び個人に固有の名称を付し、及び継続して使用する権利を有する。
2.国は、1に掲げる権利が保護されることを確保し、並びに必要な場合には通訳の提供又は他の適当な手段を通じて、先住民族が政治上、法律上及び行政上の手続を理解し、並びにこのような手続において理解されることを確保するため、効果的な措置をとる。
第十四条
1.先住民族は、その文化に則った教育及び学習の方法に適した方法によって、自己の言語で教育を提供する教育制度及び教育機関を設立し、及び管理する権利を有する。
2.先住民族に属する個人、特に児童は、国によるあらゆる段階及び形態の教育についての権利を差別なく有する。
3.国は、先住民族と連携して、先住民族に属する個人(当該先住民族の社会の外で生活している者を含む。)、特に児童が、可能な場合には、先住民族自身の文化についての及び当該先住民族自身の言語による教育を受ける機会を有するようにするため、効果的な措置をとる。
第二十六条
1.先住民族は、自己が伝統的に所有し、占有し、又は他の方法で使用し、若しくは取得してきた土地、領域及び資源についての権利を有する。
2.先住民族は、自己が伝統的に所有し、他の方法で伝統的に占有し、若しくは使用することにより保有しており、又は他の方法で取得した土地、領域及び資源を所有し、使用し、開発し、及び管理する権利を有する。
3.国は、1及び2に掲げる土地、領域及び資源について、法的に認め、及び保護する。この場合において、関係する先住民族の慣習、伝統及び土地に係る権利についての制度を十分に尊重して認めるものとする。
第二十八条 1.先住民族は、自己が伝統的に所有し、又は他の方法で占有し、若しくは使用してきた土地、領域及び資源であって、自己の自由な、事前の、かつ、情報に基づく同意なしに没収され、奪われ、占有され、使用され、又は損害を被ってきたものについて、原状回復(又はそれが可能でない場合には公正、公平、かつ、衡平な補償)その他の手段によって救済を受ける権利を有する。 2.関係する民族が自由に同意する場合を除くほか、補償については、同等の質、規模及び法的地位を有する土地、領域及び資源という形態、金銭的補償という形態又は他の適当な救済という形態をとる。
第三十八条
国は、この宣言の目的を達成するため、先住民族と協議し、及び協力して、立法措置その他の適当な措置をとる。
第四十三条
この宣言により認められる権利は、世界の先住民族の生存、尊厳及び福祉のための最低限度の基準を構成する。
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