Up 「復旧は無い」のレトリック : 要旨 作成: 2024-07-01
更新: 2024-07-01


    共同体には,地勢やインフラデザインの違いがある。
    この違いは,大地震からの「復旧」を違うものにする。

    「復旧」は,経済である。
    経済が成立すれば「復旧」が進み,成立しなければ「復旧」は無い。

    翻って,「復旧」がどんなものになるかは,経済を考えればわかる。
    行政は,「復旧」の経済を計算して,早々に「復旧」の落としどころを決めることになる。
    実際,それができなければ,行政とは言えない。


    ひとは「復旧」が遅々として進まないことを,行政のお粗末と思っている。
    そう思うのは,ひとは「復旧」を計算することをしないからである。
    1日に処理できる件数が1のものが1万件控えていれば,すべてを処理するのに1万日かかる。
    勤務日が1年に300日なら,1万日は 33年である。
    そしてこんな処理案件が,いくらでもある。
    ひとが長い時間をかけて個々に築いてきたものは,行政の手で一度にどうにかなるものではない。


    「復旧」が無理となる共同体に対し,始めから「復旧は無い」とは言えない。
    ひとを動かすことは,ひとの感情を上手に誘導することである。
    行政は,ひとの感情を誘導するレトリックを,慎重・丁寧に繰り出していくことになる。

    地方の共同体は,ほぼこういうところになる。
    地方の共同体は,古い。
    よって,古い家屋が多い。
    ここに大きな地震が起こると,多くの者が住む家を無くしてしまうことになる。
    しかしそこには,「復旧」の経済が成立しない。
    その共同体は,過疎高齢化が進行しているところだからである。

    口には出さずとも,「復旧はあり得ない」がだれの目にも明らかになる。
    ひとは「復旧は無い」がはっきり言われるのを待つようになる。
    宙ぶらりんは苦痛だからである。

    ここに,行政に出番が回る。
    「復旧は無い」を行政が宣言するときである。
    ただし,慎重・丁寧に修飾表現 (レトリック) を選んで。

2024-06-30 読売新聞から引用: