Up ボソ : ブトに対する<隣付き合い>行動 作成: 2023-07-05
更新: 2023-07-06


    自分のなわばりを相手に認めさせることは,相手のなわばりを認めることが交換条件になる。
    なわばりが隣合うカラスは,なわばりを経営する相手の行動に対して,譲歩できるところは譲歩していることになる。
    実際,ボソ (以下「ボソ」) と隣のハシブトガラス (以下「ブト」) は互いの関係をいろいろな行動で現すが,その行動のうちには「隣付き合い」の観点に立たないと解釈できないものがある。


    最も顕著なのが,繁殖に失敗すると,即なわばりの開放になることである。
    ボソのなわばりは,育雛期間は絶対であって,ブトが入ってくることはない。
    しかし,ボソが育雛に失敗すると,ブトがボソのなわばりの中にふつうにいるようになる。

    「隣付き合い」は,餌についても見られる。
    ボソをケーススタディにしている本研究は,「餌」を手法の1つにしている。
    ブトは,ボソの餌を自分も得たいと思う。
    餌をめぐってボソとブトが現す行動パターンは,一様ではない。
    そして一様にならない理由の1つが,<餌に対するブトの欲求度>であるように見える。


    2023年度は,ボソが育雛に失敗した。
    一方ブトは,7月5日の時点で,雛3頭の巣外育雛に入ったところである。
    雛3頭を育てるのは,たいへんである。

    というわけで,いまのブトは,ボソの餌を自分も得たいという欲求が強いことになる。
    実際,ボソの餌を取ろうとする行動を,現してくる。

    興味深いのは,この場合,ボソがブトを強くはねつけようとしないことである。
    ここでは,ボソのそのような行動の一つ示す。


    餌置き場を,つぎのように設ける:
    ボソの♂♀が揃って餌を要求しにやって来たら,餌置きの2か所に餌を置く。
    この置き方だと,♂♀の採餌は<一つの餌場にひとり>の形になる。


    しかし,つぎのようなときがある:
      ボソが,餌を要求しているふうなパフォーマンスを見せる。
      餌を置きに行くが,ボソが餌置きのところに来ない。
    これは,ブトがボソの餌を狙っている場合である。
    《ボソが姿を現さない》は,ブトを意識しているボソからの「いまは餌を置くな」のメッセージである。

    それでも,餌を置いてからブトの登場 (離れた所で待機) となるときがある。
    そしてここで紹介しようとするのは,このようなときのボソの行動のうち,つぎの不思議なパフォーマンスである。
    1. ボソ♂♀が一緒に餌を求めにきたので,餌置きの餌をおく。
    2. 餌置きから2, 3メートル離れた所で,♂♀が向かい合って頭を寄せ合う格好で,じっとする。
      ブト一頭 (おそらく♂) が餌場に飛んできて,1つの餌置きに頭を突っ込み,中にある餌をくわえる。
    3. このブトに,ボソ♂が突進をかける。
      餌をくわえたブトが,飛び去る。
      飛んでいく先は,親が餌を持ってくるのを待っている雛である。


    ボソ♂は,本来ブトを追い払うことができる。
    なぜ,このときは最初からそれをしないのか?
    ボソの上の一連の行動は,つぎのように解釈することになる:
      ボソは,ブトが餌を強く欲していることを知っているので,餌を分けることでこの場を収めることにした。
      ボソ♂♀が餌場から離れ,頭を寄せ合う格好でじっとするのは,ブトに対する「取れ」のメッセージである。
      ブトはこのメッセージを受け取り,餌場に飛んできて餌をくわえる。
      つぎにボソ♂がこれに突進をかけるのは,「そこまで (それ以上は取るな)」のメッセージである。

    それから,♂♀は残った餌を回収する──食べる・貯食する。
    但し,巣外育雛のブトは餌を強く欲しているので,また戻ってきて,貯食しようとしているボソに「その餌をくれ」のパフォーマンスをすることもある。


    つぎのようなのもある:
    1. ボソ♂が餌を求めにきたので,餌置きに餌をおく。
      ブト(♂) が近くにやってくる。。
      ボソ♂はブトを制して,餌を食う。
      観察者は,両者から数メートル離れたところで,観察する。
    2. ボソ♂が,ブトが餌を取るのを許すような位置取りをする。
      しかしブトは,観察者を警戒して,餌置きに行かない。
      ボソ♂は,観察者の前を歩いて通過し,ブトの後方に位置取る。
      ブト♂は,餌置きに行って,餌を取る。
      ボソ♂がブトの後方についたのは,「行け」の促しだったわけである。
    3. ブトが餌を取るある程度のところで,ボソ♂はブトを制する行動をする。
      ブトは餌置きから離れる。──餌は喉袋 ( 喉袋) に入っていて,食べてはいない。
      しばし様子をうかがうが,ボソ♂が餌を譲るパフォーマンスをしないので,飛び去る。


    なわばりが隣合うカラス同士には,「こうでもしないと収まりがつかねえや」「しょうがねえな」の譲歩行動がいろいろある,ということである。


ブトが塔から餌の有無をうかがう──アンテナにボソの♂♀