Up 「ダメ」コミュニケーション 作成: 2023-07-11
更新: 2023-07-11


    ひとが相手に示す「ダメ」には,いろいろな「ダメ」がある。
    「絶対ダメ」とか,「強くせがまれれば譲るかも」とか,「いいよ」とか。
    「ダメ」を示された方は,相手の表情や状況からその「ダメ」の意味を感じ取って,その「ダメ」に対応する。

    ハシボソガラス01と,これとなわばりが隣り合わせのブトの間にも,この「ダメ」コミュニケーションが認められる。
    即ち,ハシボソガラス01の♂ (以下「ボソ」) の餌を隣のハシブトガラスの♂ (以下「ブト」) が欲しがる場面で,これが観察される。

      この度は,ブトは3頭の雛の巣外育雛の真っ最中,そしてボソは今回は繁殖を失敗している。 よって,ブトがボソの餌を欲しがる場面を多く観察できることになる。


    ボソは,自分のなわばりのなかでは,ブトを退けようと思えば退けられる。
    この<退ける>を可能にしているのは,腕力ではない。
    両者の<権力>幻想が,<退ける>を実現している。
    「なわばり」には,<権力>幻想がつくられるという含意がある。

    この<権力>幻想により,ボソは自分の採餌にブトを寄せ付けないことができる。
    即ち,「絶対ダメ」が成立する。

    一方,ブトがボソの餌を取ろうとすることがある。
    ブトはこれに対し「ダメ」をパフォーマンスするが,それは本気ではないことになる。
    実際,本気ではないから,ブトがボソの餌を取ろうとするわけである。
    ブトは,頃合いを見て,ボソの餌を取りにかかる。
    「くれたっていいだろう」というわけである。


    ボソが貯食するモードで餌をくわえているときは,この「くれたっていいだろう」の場合になる。 「貯食」は,余裕のモードだからである。

    ブトは,ボソに向き合い,ボソがくわえている餌を取ろうとする。
    ボソは体の向きを変えて,「ダメ」を示す。
    ブトは回り込んで,ボソに向き合い,餌を取ろうとする。
    ボソは体の向きを変えて,「ダメ」を示す。
    これを数回やった後,ボソがくわえている餌を,ブトが嘴で取る。

    ひとは先端恐怖症なのでこの場面は危なっかしく見えるが,両者の間には加減が働いていることになる。
    実際,ボソの「ダメ」は,<意地悪をしてみせる>パフォーマンスのように見えてくる。
    両者がやっているのは,<争い>ではない。
    <お付き合い>が演じられているのである。