Up チリのサバク化における日本のポジション 作成: 2022-03-24
更新: 2022-12-16


    日本は,世界最大の木材輸入国である。
    国産材供給量 が約 2000万m3 (農水省「素材需給の動向及び木材産業の動向」) であるのに対し,新型コロナの影響を受ける前の 2018年の木材輸入実績 (林野庁の統計) は,
      丸太: 328 万m3
      製材: 597 万m3
      合板: 228 万m3
      木材チップ: 1,245 万トン (比重0.5 で体積換算すると,2,490万m3)
      集成材: 94 万m3

    ここで,チリからの輸入に着目してみる:
      丸太: ─
      製材: 32 万m3
      合板: ─
      木材チップ: 187 万トン
      集成材:─

    木材チップは,製材に適さない木を使う。
    天然林の広葉樹は,これになる。
     註: 木材チップの輸入は,近年はベトナムからの輸入が多くなり,その分チリからの輸入量が減っているが,ベトナムからの木材輸入が木材チップに偏るのも理由は同じ。
    天然林の広葉樹を伐採して木材チップを製造することが,行われているわけである。

    その天然林は,パタゴニア原生林である。
    原生林伐採はアマゾンだけが話題になるが,アマゾンは熱帯雨林の代表。
    そして温帯雨林の代表になるのが,パタゴニアである。


    チリから日本が輸入の木材チップ 187 万トンは,木何本分か?
    主幹がまるまんま木材チップになるとして,大雑把に計算してみる:

      主幹を直径 20cm で高さ 20メートルの円柱に見立てると,体積は
        3.14 × 0.12 × 20 ≒ 0.65 m3
      円錐だと,これの 1/3。
      そこでこの間をとって,0.3 m3 としよう。
       註: 「原生林だから木は巨木だ」と思ってはならない。
      広葉樹は針葉樹と比べて成長が速く幹の密度が粗なので,針葉樹みたいに大きくはならない。
      そして林の中だと,横にも広がらない。
      寿命もせいぜい200年くらいにとどまる。
      比重は,木材チップにするような広葉樹ということで,0.5 くらいでいいだろう。
      このとき,重さは 0.15トン。
      したがって 187万トンは,つぎの計算により,木が約 1247 万本。
        187万 ÷ 0.15 ≒ 1247万

      高さを 20メートルで計算したが,10メートルにすればこれの半分で 623 万本。

    では,チリの木材チップ年間総輸出量は,木何本分か?
    総輸出量のデータが無いので,仮に日本への輸出量の 5〜10倍とすると,木の本数は 623〜1247万本の 5〜10倍。 
    即ち,3115万本〜1億2470万本。
    これは「木材チップ分だけで1日に 9〜34万本を伐採」ということになる。
    途方もない数値になったが,計算すればこんなふうになる。


    林野庁によると,「チリの国土面積は7,565万7,000haであり、2014年の森林面積は1,676万haで、そのうち、天然林が1,431万7,000ha、人工林が244万8,000ha」。
    しかし「天然林が1,431万7,000ha」の意味は,「天然林がこの面積で保存されている」ではない。
    「天然林がこの面積で乱伐されている」ということである。

    アマゾン原生林と同様,パタゴニア原生林ももうじき終わろうとしている。


    そして,ここが肝心なところだが,原生林とは木だけのことではない。
    そこは無数の生き物の棲む大きな生態系である。
    乱伐は,この生態系の破壊である。
    破壊された生態系は,戻らない。

     註: 広葉樹林の場合,伐採された木の株からは(ひこばえ)が生じ,百年単位の時間をかければ林は復元することになる。(但し,伐採による気象や生態系の変化がサバク化を招く,というふうに遷移しなければ。)
    しかしこの時間の間に,もとの生態系はすっかり壊れてしまうのである。

    戦争で破壊された市街の映像は,森林伐採で破壊される生態系をよく表現する絵になっている。
    「破壊」は,建物の話ではなく生活者の話である。
    そことパタゴニアの違いは,前者には声が有って後者には無いということである。 ──声有る者はまだよし。


    日本人は,自分たちは「侵略」を斥ける側にいると思っている。
    しかしそれは,ものを知らないだけである。
    自分たちが「クリーン」に見えているそれは,「ひとに侵略をさせ,自分は手を汚さない」である。

    日本は,生産手段を他国に売り,他国がその生産手段で生産したものを買うという国である。
    日本のこの流儀は,他国の生産が行き詰まると,破綻する。
    この破綻は,「自給率」として数値化されている。
    しかしそれがどうであれ,日本はいまの流儀を続けるのみである。
    「慣性の法則」というわけで,目前に迫る崖を見ても止められない。