Up 「金造り」の経済学 : 要旨 作成: 2020-08-03
更新: 2020-08-03


      NHK Web News, 2020-07-31
    財政健全化指標 2025年度黒字化の目標達成 一段と厳しい状況に
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    内閣府が経済財政諮問会議で示した最新の試算によりますと、今年度・2020年度の「基礎的財政収支」の赤字額は、半年前の試算の4倍を超える67兆5000億円に拡大する見込みです。
    新型コロナウイルスの感染拡大に対応するための2度にわたる補正予算で、財源として57兆円余りの国債を追加で発行したことが主な要因です。
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    “最悪の水準”が一段と悪化
    内閣府が発表した最新の試算によりますと、今年度の国と地方を合わせた借金の残高は昨年度より82兆9000億円増えて、1146兆5000億円に達する見込みです。これは、GDP=国内総生産の2倍以上にあたります。
    新型コロナウイルスの感染拡大に対応するための2度にわたる補正予算で、財源として57兆円余りの国債を追加で発行したことが主な要因です。日本の財政はすでに先進国で最悪の水準でしたが、大規模な財政出動によって一段と悪化した形で、感染拡大による経済の停滞が長期化すれば、さらなる財政支出が必要になる可能性があります。
    また、いわゆる団塊の世代が75歳以上となっていく2022年が2年後に迫り、国の一般会計の歳出の3分の1を占める社会保障費のさらなる増大が避けられない状況です。
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    各国の状況は
    新型コロナウイルスの感染拡大で景気が落ち込む中、世界各国も大規模な経済対策の実施によって日本と同様に財政が悪化しています。
    このうちアメリカでは今月までに総額300兆円規模の経済対策が発表され、職を失った人に対する失業保険の給付や中小企業の支援などにあてられています。
    中国はウイルス対策のためのおよそ15兆円規模の特別国債を発行するほか、地方がインフラ事業などに使う債券の発行枠を去年より大幅に拡大して56兆円余りとするなどの対策を打ち出しています。
    イギリスはGDP=国内総生産の15%にあたる45兆円規模の企業の資金繰り支援に加えて、飲食や観光の分野で日本の消費税にあたる付加価値税の税率を半年間、引き下げるなどしています。
    また、ドイツは補正予算で新規国債を7年ぶりに発行したほか、付加価値税の引き下げなどを実施しています。
    IMF=国際通貨基金によりますと、世界全体の公的債務残高のGDP比は、先月時点の推計で101.5%と、去年より18ポイント余り上昇し過去最悪となる見通しです。
    国別に見ると、
     ▽日本が去年より30ポイント高い268.0%
     ▽アメリカが32ポイント高い141.4%
     ▽イギリスが16ポイント高い101.6%
     ▽フランスが27ポイント高い125.7%
     ▽中国が12ポイント高い64.1%
    などとなっています。
    各国ともに大規模な財政出動の財源を国債の発行などで賄い、債務が急激に膨らんでいることがうかがえます。


    新型コロナ不況は,「自粛」不況であり,つぎの構造になっている:
    • 潜在感染者は厖大な数なので,陽性検査による感染者掘り出しは,検査を拡大するほど感染が確認される者の数が増え,そしてきりがない。
      「専門家」とマスコミは,この現象を「感染拡大」と言い直す。
      都道府県知事は,「感染拡大」の言に騙されて,自粛を択ぶ。
    • 自粛は,GDP減になる。

    この不況への政府の対策は,「財政出動」である:
    • 自粛で収入が無くなる者に対して,手当てをしなければならない。
      GDP減に対しては,恐慌に進ませないための対策をしなければならない。
      政府は,これを財政出動として行う。
      これの中身は,金のばらまきである。
      そしてその金は,<金造り>で生む。

    政府は,経済の崩壊を阻止することが役割なので,自粛を早く切り上げて経済を回復軌道に乗せることを考える。
    都道府県知事は,自粛を択び,政府に財政出動を求めることを専らとする。
    「自粛」恐慌は,<政府 vs 知事>の矛盾構造である。

    ただし政府には,理論がない。
    理論がないので,すぐにブレる。
    都道府県知事に簡単に迎合することになる。

    こうして,「自粛─財政出動」スパイラルには,歯止めの要素がない。
    《自粛 → 金造り》の泥沼化が展望されるばかりである。


    しかしこの「泥沼化」は,経済学/生態学の立場からは,「どのようになるかを見ておきたい」となるものである。
    <金造りの極まり>をまだ見た者はいないからである。

     註: 近代経済学は,不況対策は公共事業である。
    このたびの不況対策は,金のバラマキである。
    この二つは,「恐慌」論が自ずと異なるものになる。

    <金造り>財政に対し,ひとは「なんかおかしい」と感じる。
    「こんなことが成り立つわけはない」と感じる。
    しかし,「成り立たない」を説得的に立てた理論は,まだ無いのである。
    これは,<金造り>財政がかなりの複雑系であることを意味する。


    日本は,税収60兆円程度に対し公的債務残高が「1146兆5000億円」の国である。
    「GDP比 268.0%」のような言い方は騙しであって,債務 (借金) として表現するのなら「税収比 1900%」──税収の 19年分──である。
    このような極端に財政赤字の国は,主要国の中では他に例が無い。
    日本は,金造りに制限がかからなくなっているのである。(他の主要国だと「財政規律」の制限がかかる。)

    こうして日本は,<金造りの極まり>を観察する対象として,うってつけのものになる。
    千兆円規模の財政実験など,これまであった例しがない。
    この実験が,これから見られるというわけである。

     註 : 「千兆円」がどのくらいの額かピンと来ないひとへ:
      一人につき1千万円を,1億人 ( ≒ 日本の成年人口) に支給できる額