Up 官製賃上げ : 要旨 作成: 2022-01-22
更新: 2022-01-22


      日本経済新聞, 2022-01-11
    自民幹事長「前向きな賃上げを」 経団連に要請
    自民党と経団連は11日、都内のホテルで経済政策について協議した。茂木敏充幹事長は岸田文雄政権の看板政策「新しい資本主義」の分配政策の柱となる賃上げを求めた。「適切かつ前向きな賃上げへ協力をお願いしたい」と述べた。
    経団連の十倉雅和会長は「働き手への還元は経営者の責務だ。収益が好調な企業に積極的な対応を期待する」と語った。春季労使交渉(春闘)に向けて首相が唱える「成長と分配の好循環」を考慮した行動を呼びかけると触れた。
    茂木氏は予算案や税制改正の成長戦略を強調した。「デジタルやグリーンといった分野を中心に思い切った予算措置、税制、規制改革を使って民間投資を促進する」と説明した。
    首相は2021年11月、新型コロナウイルス前の水準に業績が回復した企業について「3%を超える賃上げを期待する」と表明した。5日の経済3団体の新年祝賀会でも改めて要請していた。
    22年度税制改正は賃上げ企業の優遇税制の拡充を掲げた。大企業向けは控除率を最大30%、中小企業向けは最大40%に引き上げる。現行はそれぞれ最大20%と25%だ。政府は賃上げを表明した企業を4月からの政府調達でも優遇する。


    新型コロナに「緊急事態」で応じたことにより,経済活動が狂い,そして財政出動が繰り返されてきた。
    大衆はまだわかっていないが,日本の経済・財政は危ない状況になっている。
    政府の方は,この状況に危機感をもつ。
    その思いは,「不況のサイクルに入ってしまったら最期!」である。

    そこで,不況サイクルに絶対陥らないよう,手立てを考える。
    経済界への賃上げ要請は,この流れで出てくるものである。


    景気は,人の消費マインドで支えられている。
    ──経済の危うさは,消費マインドに根拠が無いこと,そしてこの根拠のないものに依っていることである。
    消費マインドを萎ませないためには,金をもたせねばならない。
    岸田内閣が「新しい資本主義」と称して分配政策を掲げるのは,この認識が理由である。

    分配政策は,賃金労働者に対しては「賃上げ」が対策になる。
    この度は,経済界に「3%以上の賃上げ」を要求することになった。
    経済界はこれを「官製春闘」と呼んでいるが,巧く言ったものである。


    要求は,ことばではない。
    取引である。
    「国の方から金をやるから,賃上げをやってくれ」である。
    そしてこの「国の方から金をやる」が,「優遇税制」というやつである。
    何のことはない,賃上げは国が金を払うのである。

    しかし,「賃上げは国が金を払う」ということであれば,「優遇税制」はまどろっこしいやり方ということになる。
    実際,税で優遇しても,そっくり賃上げに回してくれるかどうかわからない。
    経済界は狡猾である。


    「優遇税制」は,上品ぶったやり方である。
    上品に対しては,下品がある。
    それは「直接支給」である。

    実際,政府は直近では「国民一人あたり10万円支給」のバラマキをやったところである。
    財政はもう何でもありになっている。
    直接支給に対してとやかく言う者は,財務省の中にももういない。

    直接支給の方法は?
    「財政投融資」を名目にする直接支給である。
    「財政投融資」とは,紐付き国債のこと。
    賃上げの紐をつければよい。
    「賃金労働者一人あたり,賃金の3%分を支給」──構造は「国民一人あたり10万円支給」と同じ。

    賃金労働者の数は,だいたい3千万人くらい。
    年に一人あたり平均20万円の給付なら,総額6兆円である。
    仮に100万円でも30兆円で,新型コロナでの一回の財政出動の支出額より小さい。
    日本国民は兆の単位の額にはもうすっかり慣れている (感覚麻痺している) から,6兆円なんか安いもんだと思ってくれる。


    このように「新しい資本主義」は,具体化の形はいろいろであるにせよ,「国が金を創って国民に給付」がこれの内容である。
    なんだか不思議なことになってきたが,ここは生態学/進化学の趣きで興味深く観察していくところである。