Up 農民の身分固定 作成: 2024-09-11
更新: 2024-09-11


    「食料安全保障」の声が喧しい。
    喧しいのは,「食料安全保障」の中身がどんなものになるかを考えないからである。
    中身を考えさせると,喧しい声は鎮まることになる。
    「食料安全保障」は,ものすごい規制の導入がこれの中身になるからである。


    安定した米作は,規制によって実現される。
    その規制は,米作農民を恒常的に確保するための規制である。

    この規制の最もごついのが,農民の身分固定である。
    実際,これを無くして「職業選択の自由」にすると,米作は日本のいまのように凋落することになる。

    農民の身分固定を堅持している国もある。
    中国はそうである。
    米作を国の安全保障にしようとするときは,中国の農民身分固定制くらいのことをせねばならないというわけ。


    中国は,農民の子として生まれると農民戸籍になる。
    中国の農民一人当たりの耕地面積は小さい。
    農民の生活水準は低く,農業では生活が苦しい。
    ここに,農民工制度というのがある。
    農民は,30代を上限として,都市に住んで働けるという制度である。
    農民工ということで色々差別はあるが,農業をするより稼げる
    こうして農家の若い者は,農民工として都市に出て働き,家に仕送りをする。

    若夫婦もこれをするわけだが,ここに子どもは都市の学校には入れないという規則がある。
    よって,子どもが学齢期になったら,家に返す。
    子どもは祖父母と暮らして大人になる。


    中国の農民身分制度は,「一人当たりの耕地面積が小さい農業」の固定である。
    よって,貧農の固定になってしまう。
    ではなぜこの制度になったのか?
    この制度の意味は,これをしないと「農民の狭い土地を取り上げ,農民を無産者にする」が横行するからであり,それの規制である。

    日本の農業は,「一人当たりの耕地面積が小さい農業」である。
    これは,戦後の地主農地解体政策 (「農地改革」) による。
    地主の農地が小作に分割されることで,一人当たりの耕地面積が小さい農業になった。

    農民は,相対的に貧しくなる。
    そこで国は,その貧しい分を「補償金」で埋め合わせることが政策になる。
    農政は,これが主たる内容になっていく。


    時代は移り変わる。
    日本はいま,「財政破綻」の状況。
    一人当たりの水田面積が小さい米作は,米作の旧態依然の元凶ということになり,「水田を集約せねばならない」の流れになっている。
    地主・資本投入型経営が,いまの善である。


    昔の地主は,地域を守ることが役割としてあったので,米作を堅持する。
    市場原理の時代の地主は,米作を続けるのは利益を出せる間である。
    利益が出なくなったら,やめる。

    というわけで,「水田の集約化」は,これで日本の米作のいまの衰退が解決されるという話ではない。
    市場原理に曝されるのは,「水田の集約化」になっても同じである。


    米作は,規制によって農民を守ると,貧農自営になる。
    自由にやらせると,地主 (会社) 経営になる。

    米作への政治介入は,政策を以てこれのバランスをとるということである。
    しかしそんなことは,無理である。──構造的に無理である。
    農政は,失敗し批判されるのが定めである。

    実際,批判されているうちは,まだよい。
    批判は,期待の裏返りだからである。
    しかしそれは,農政に対する買い被りというものなのである。