ＷＷＷコンテンツ・ベースの授業の得失
最良の授業方法というものはありません。どの方法にも得失はあります。わたしが授業をＷＷＷコンテンツ・ベースで行うことにしたのは，単純に，
自分の場合，ＷＷＷコンテンツ・ベースの授業の得失に関しては「得」が「失」を上回る
という理由によります。
ＷＷＷコンテンツ・ベースの授業の「得」は，つぎのようになります：
授業者にとって
マルチメディアを扱える。
各主題の理解では，重要な要素にイメージの獲得がある。そしてイメージを伝えるには，本来マルチメディア・パワーが必要
(註)
。
マルチメディアの援用で，主題の内容を効果的/効率的に伝えることができる。
授業時間枠に限定されないで済む。
オンライン学習はマイペース学習。理解への到達，理解の強化を保証できる。
演習/実習の時間枠を特設して行うのと同じことができる。
オンサイト授業でのメリット
限られた授業時間を効率的に使うことができる。
特に，ディスプレイに時間をかけないで済む。（Cf. 板書）
授業で使う機器は，ＬＡＮ/インターネット端末としてのコンピュータ１台。複数の機器の煩雑な操作から解放される。（デジタル一元化のメリット）
教材の持ち運びの必要がない。特に，インターネット端末とデジタル・プレゼンテーション設備があれば，時間や場所によらず同じ授業を行うことができる。
教材の作成/保守でのメリット
高品位な授業コンテンツを，効率よく作成できる。
アプリケーション・ソフトが豊富に揃っている。
資源の二次利用，雛形として使用。（デジタルのメリット）
保守が簡単。スペースもとらない。（デジタルのメリット）
教材のアップデートが自在。
インターネット端末のあるところからは，いつでも教材にアクセスできる。
デジタル編集の強みを享受できる。
授業を一旦完成してしまうと，力を授業の他に割くことができるようになる。特に，比較的多くの授業を一人でこなせるようになる。（とはいっても，つねに新しい欠落が現れてきて「完成」にはなかなか至れないというのが現実。）
学生にとって
マルチメディアの援用により，主題が理解しやすくなる。
マイペース学習
時間をかけて主題の理解に努めることができる。
オン・デマンドで授業を受けることができる。
インターネット端末のあるところからは，いつでもアクセスできる。
教材の二次利用が簡単。
自分の端末にダウンロードして使用。
ＷＷＷコンテンツ・ベースの授業の「失」はつぎのようになります：
授業サーバーがトラブルと，授業できない。
わたしの場合，オンサイト授業のときは休講措置をとることにしています。オンライン授業を十分高い品質でつくり込んでいるので，アリバイ的に代替措置の授業をしても意味がありません。とはいえ，授業に対する学生の心証が悪くなるおそれについては，心配しています。
試験が近づくと学生のアクセスが急激に増えます。これまでには起こっていませんが，もしこのときに授業サーバーがトラブってしまうと，学生の被害を考慮した対応が必要になります。
オンサイト授業でのデメリット
プレゼン機器のトラブル
プロジェクタの明るさの度合いが高くない場合，照明を暗くしなければならないので，学生にとって筆記が負担になる（オンサイト授業の場合）
授業の進行が速くなる
デジタルプレゼンテーションでは，長時間かけて作成した教材も表示は一瞬。授業者が板書に時間を割きその板書を学生が書き写すという形の授業とは，まったく異質の授業になる。「ゆっくるやる」も単純にはできない。ただし，教材はＷＷＷコンテンツとして存在しており，学生はマイペースで自学習できるので，この点はそのままでは短所とは言えない。要は，
デジタルプレゼンテーション＝「書き写す」を無用とする授業
の位置づけで，その方法の確立が求められることになるわけだ。
教材の作り込みに時間を要する。
ＷＷＷベースの通信教育の実現を困難とする最大の理由がこれ。
一コマ９０分の授業の場合，少なくとも３０ページ，そしてビジュアル素材が２ページにつき一つといった割合で欲しくなる。オンサイト授業の教材ならこの量を少なくすることはできるが，オフサイト授業の教材はそうはいかない。ほぼ出来上がった形でないとオフサイト授業の教材にはならない。これを自転車操業的にこなしていくのは，かなりたいへん。
(註)
「マルチメディアと数学教育」
（教科教育学研究図書第４巻『子どもとコミュニケーション』, 1995，東京書籍, pp.238-252）