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はじめに
作成: 2003-01-12
修正: 2003-01-12
「e教育」とは,これまで,遠隔教育,在宅者教育のことであった。
それは,およそつぎのようだ:
授業者をITについて素人と想定したe教育のシステムがつくられる。これが,教育機関に導入される。
このシステムには,つぎの2タイプがある:
ビデオによるリアルタイムの遠隔授業を可能にするもの
ウェブベースのバーチャル・スクールを構築するもの
ウェブベースのバーチャル・スクールでは,
どの授業者も容易に参画できるようにする。
スタイル,品質がほぼ一様になるようにする。
が立場としてとられ,授業者が一定フォームにしたがってコンテンツを提出ないしアップロードするという方法がとられる。
この結果,授業コンテンツはほぼテクストベースになる。つまり,授業コンテンツをつくるとは,文章を書くことだ。
「教授/学習メディア」としてのウェブへの関心のあり方には,「遠隔教育」の一方で,「情報デザイン」がある。「マルチメディアを場とする情報デザイン」の立場から「リッチ・コンテンツのプラットフォームとしてのウェブページ」という課題意識が持たれるのが,この場合だ。
わたしの場合もこれで,数学教育の「高品質化」という問題意識から,1980年代終わり頃から「マルチメディア教材」に,そして1995年頃から「ウェブベースのバーチャル・クラス」を,試行してきている。
「遠隔教育」としての「e教育」に対する関心は,教育のブロード発信とコスト・労力の削減だが,「情報デザイン」の立場からの「e教育」に対する関心とは,教育の高品質化だ。そして,直接教育に従事する者の関心は,「遠隔教育」よりはむしろこちらの方になる。
情報デザイン派にとっては,「e教育」はやっと現実的な主題になってきたところだ。すなわち,e教育はやっと始まりかけてきたところだ。
情報デザイン派の考えるe教育は,これまで,コスト,技術,環境それぞれの点で,個人には手の届かないところにあった。研究の対象にはなっても,実際の授業へとオーガナイズしたり,一般学生に降ろすことには,さまざまな困難があった。
最近になって,ディジタルコンテンツ制作に実績のあるハードウェアやソフトウェアがやっと「なんとか個人レベルでもとりそろえることができるか」といった価格帯に降りてきた。
保存メディアも,大容量化と低価格化が同時に実現されてきた。
そしてなによりも重要なこととして,e教育を受けられる通信環境(マルチメディアPCおよびネットワーク)をもつ個人が増えてきた。
「e教育」に対する「情報デザイン」の立場からのアプローチは,「遠隔教育」の立場からのアプローチとは決定的に違ってくる。
例えば,「遠隔教育」の場合,システム設計によって,従来型教育者をそのままe教育に向かわせることを可能にしようとする。そこで,「e授業者のマス・プロダクション」がシステム設計の方針になる。
一方,「情報デザイン」指向のシステム設計では,教育者個々人の能力の自由な開放を支援し,妨げないということが,方針になる。これは,「e授業者のマス・プロダクション」のシステムとは相容れない。
結局のところ,「情報デザイン」の立場からのe教育の実践は,教育者個々人の甲斐性で行うものにならざるを得ない。「分業」の導入はかえってめんどうなことになるので,システム設計,コンテンツ作成,その他いろいろを,基本的に自分でまかなうということになる。特に,「多才」がこのときのe教育者の条件になる。
ただし,「多才」という表現は,いまの教育者(従来型教育者)に視点を当てている限りのものだ。今後,この「多才」は教育者の「あたりまえ」の資質になる。キャリア形成での競争的環境が,このことを実現する。実際,e教員養成の教育プログラムが,いろいろなタイプの学校で導入されていくようになるだろう。