Up 生涯学習教育に2タイプ──自己充足支援型と人材育成型 作成: 2000-12-23
更新: 2007-12-02


    「生涯学習」の受けとめ方は,これまではつぎのものが典型である:

        国が豊かになる
      → 生活にゆとりが出てくる
      → 心の豊かさや生きがいが求められる
      → 生涯学習

    ここでは,「生涯学習」が「自己充足」といったニュアンスで主題化されている。

    これは,学習を趣味や娯楽と同列に並べる考え方である。 そしてこのとき,生涯学習教育は教養や趣味を中心にした内容で企画されることになる。 実際,これまでの「大学公開講座」は,およそこのような内容で実施されている。
    このような生涯学習教育を,ここでは「自己充足支援型」と呼ぶことにする。


    しかし,「生涯学習=自己充足」は,つぎのような状況認識を持つときには現実的でなくなる:

      わが国の経済状況の悪化,国際的競争力の低下,少子化等の問題が,構造的なものとしてますます深刻化している。 この問題に立ち向かうための構造改革に,国民ひとりひとりが精力的に取り組まねばならない。

    この場合は,「生涯学習」はつぎの意義において主題化すべきということになる:

      「(労働力市場における) 自分の付加価値を高める」
      「自分の進路を開発する」

    「社会が必要とする人材に自分を実現する」というニーズに応えることを目的とする生涯学習教育を,(「自己充足支援型」に対し) ここでは「人材育成型」と呼ぶことにする。


    自己充足支援型と人材育成型の区別の規準は,つぎのようになる:

      学習で実現される新しい自分が,
      • 自己満足されるものか
      • 人材市場において満足される(他者満足される)ものか

    自己充足支援型か人材育成型かは,つきつめれば学習者の意識の問題であり,学習主題で決定されるものではない。

      例えば,大学の公開講座に「俳句」の講座があってそれを受講しに行く場合,趣味が理由であれば,その人にとってその講座は「自己充足型」であり,俳句の雑誌編集の仕事に就くことになり会社の上司から勉強してくるように言われたということであれば,「人材育成型」ということになる。

    しかしそうではあっても,学習の意義を受講生に丸投げするスタンスでは,生涯学習教育の経営は成り立たない。 生涯学習教育を企画・運営する側では,その教育の特徴づけとして,自己充足支援型か人材育成型の区別をはっきり立てることが必要になる。

    この区別は,授業形態に表すことになする。
    自己充足支援型の授業は,「余暇の充足」という面を考慮する。
    一方,人材育成型の授業は,実質授業の形をとる。

    「実質授業」とは何か?
    授業を「実質授業」にするものは,「評価」。
    人材育成型の授業は評価が要(かなめ) になる。

     註 : 遠隔授業が対面授業の代わりにならない理由はいろいろあるが,その一つが評価である。 特に,学校経営者が夢みる「学校のグローバル展開を遠隔授業を方法にして実現」は,評価が制約条件になることによって,かなわないものになる。