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入坑・出坑
作成: 2023-12-22
更新: 2024-02-22
川島 (1933), p.906
[鉱員社宅から] 坑内行人車乗降場迄,2町乃至4町。
人車は通洞を経て一坑斜坑底に至る (此距離 3,960米 所要時間約15分)
猶上部に就業するものは更に斜坑人車に乗換へ、捲揚機により捲揚ら るゝを以て (此距離680米 所要時間7分) 徒歩往復をなす、
區間は極く短距離なり。
川島 (1933), p.892
川島 (1933), p.895
国土地理院 空中写真 (1962)
『美唄市史』,1970, p.481 から引用:
繰込場
繰込坂
美唄市『写真で見る美唄の20世紀』, 2001 から引用:
昭和30年代
『足跡 : 三井美唄35年史』, pp.72-76
早春の暗い夜のとばりからさめる頃,朝の静けさを破るが如く,サイレンの音が三井中に鳴り響く。1番方勤務の家々から勢よく煙が吐き出され三井美唄の1日が始まる。
午前6時. 新鮮な朝の大きな "スコ" を背負った人や,名残り惜しそうに最後の一服を喫っている人,キリッとした現場着に身を固めた人. 寒そうに頬かむりをした人,それぞれ坑内の職場へと向かう1番方の人々が次第に集まって,繰込坂を登っていく。 軽快なレコードのメロデーがなり終って,坑内の保安状況が今日1日の安全を祈るが如くアナウンスされている。
真新しい手拭いを首に捲いた25, 6才前後の,何となく新婚さんらしき (第6惑で) 元気そうな鉱員さんに "お早よう。御苦労さんです。現場は?" "ハア,東区で掘進をしています。" "どうです朝が早いんで眠でしょう。" "えゝ,少し眼いんですよ。然し坑内着を着けて了うと眠いのなんか吹飛んでしまいますよ。" と元気な声。 その間にも続々と働く仲間が集まって来る。 この繰込坂も以前はトンネルもなく,冬になると近所の腕白坊主の絶好の遊び場所で,ひと冬何人もの働く人達がスッテンコロリ。 今ではトンネルも作られその心配はない。
トンネルが尽きて安全灯前の広場に出た。 アーチの標語が眼に入る。 "首を山すな支柱が怒る" "運搬事故防止期間" と肉太に書かれてある。 安全第一を強調する緑十字のマークに, 最も条件の悪い最も危険度の高いとされている坑内作業の第一線に向かう人々に, 不断の注意と安全を祈る切実なる希求がこめられている事を思いしゅく然とした気持ちになる。
平屋建の安全灯場の人口に,木札に大きく "禁煙区域" "自己捜検" と書いた看板がぶら下っている。 参々伍々と集まってきた人々は, ポケットより出勤票を出して繰込掛の捺印場に並んだ。 4片式出勤票の中1片が残され,後の3片を抱いて現場に向かうわけである。 この頃になると (6時40分) 安全灯を受取る人,出勤需にペタン,ペタンと印を押す音,大声で話し合うガヤガヤした声が一諸になって, 一つの交響曲を奏でる。 入坑前の活気溢るる時だ。 先山,後山らしきグループがあちこちに見られ,一緒になって安全灯を受取るや,キャップランプの電池は腰に. ランプはぐるっと首から廻され頭の前に取付けられた。 サアー来い。これでOKといわんばかりの勇ましい炭鉱マンの姿が出来上った。 ランプを身に付け捜検に向かう。 両側の壁には, 支部の連絡や, 文化サークルの告示がベタベタ貼ってある。 "おーす" と鉱員さん。"おーした" と捜検のオツさん。 手つきよろしく胸, 胴ズボシのポケットを上から順にさわっていく。 終った者から次々と進発所に入る。 何百人もの人々を20分位で検査するのであるからこれも大変な仕事。 もっともそこは馴れたもの。さっさと手際よく両手が流れる。 進発所 ── 人車乗場に行く前に一休みしたり,時々は常会が開かれたりする 広間集会所である。 約120畳もあるかと思われるコシクリートの広間には,保安の統計や心得など繪看板がぐるっと掛けられてある。 又互楽館の告知板や. 写真ニュース又は他鉱業所よりの新聞など掲示板あり, 人坑前の人が立って読んでいる。 殺風景な進発所の一隅に希望退職された一女性の活けた盛花が一点のうるおいを添えている。 アンプセットにより軽快なメロデーが現場へ向かう人々に快よい感じを与えている。 スチームのやんわりした暖気が先程の寒気を忘れさせる。
やがて. 入坑人車の発車5 分前のベルが広い進発所にひびき渡る。 さあ現場へとみな一斉にざわめきだす。 ドヤドヤと人々は人車ホームへと上って行く。 キャップランプが螢の灯の様に暗い廊下にゆれて行く。
ホームへ出る。 東区,西区方面行きの人車が,長蛇の如く狭いプラットホームを挟んで並んでいる。 バタバタと腕木を外して乗り込もうとする人,20数輛の人車には,ぎっしり人が乗って発車を今や遅しと待っている。 午前7時,電車のサイレンが高らかに鳴り渡る。 と同時にゴトン,ゴトン,ゴトンと人車はひとゆれしてゆるやかに動き出した。 1番方入坑者を乗せた人車は,今ぞ地底 600 M,延長 8700 M の坑内へと一路驀進する。 赤いテールライトが次第に遠ざかる。
"ゴオーツ‥‥‥ウ" あたりの静けさを破ってサイレンを吹鳴らし乍ら電車にひかれた人車が勢よくホームに滑り込んで来た。 炭塵に汚れて目ばかりギョロギョロ光らした真黒い顔,どの顔も1日の務を終えた満足に輝いている顔である。 どの顔も人車より外を覗いて,停止おそしと待ちかまえている。 ガタン,ガタン 停止と同時に腕木をはずすと同時にホームにごった返し,肩と肩を打ちつけ合い乍ら,我先にとホームの降り口へと吸い込まれて行く。 進発所で見ていると帰心矢の如く脱兎の如く何か大声でやめき乍らとんで行く。 走ってはいけないと思いつゝも走りたくなるのは当然であろう。 安全灯場の係は,戦場のような忙しさだ。 新鮮な空気を腹一杯吸い込んで,今日の無事を喜ぶかのような笑顔,安全灯を返した坑内マンは,足どりも軽く楽しい吾家へ,最愛の妻子の待つ吾家へと駈け足で急ぐのである。
繰込坂
安全灯室
進発所
人車 (昭和30年代)
同上, p.54
本延坑口
浴場
同上, p.87. (茂泉透「ふるさと三井美唄」, 炭層 39号, 1956.6)
これに隣接して,君も憶えている昔からの浴場,君がいた頃は5丁目と2 つだったね。今はそれが6つになっている。
それにだ, 今度は180坪だかの坑口浴場が出来るとか聞いている。
引用文献
川島三郎「美唄の探炭計晝に就て」, 日本礦業會誌, Vol.49 (No.584), 1933., pp.887-909.
三井美唄鉱業所臨時事務所,『足跡 : 三井美唄35年史』, 1964.5887-909.