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読売新聞, 2021-10-12
矢野財務次官「バラマキ批判」寄稿 波紋
財務省の矢野康治次官が8日発売の月刊誌「文芸春秋」に衆院選や自民党総裁選を巡る経済対策などの論争について、「パラマキ合戦」と寄稿したことが波紋を広げている。
岸田首相らは静観しているものの、衆院選を直前に控える中の財務省事務方トップの異例の発信に、与党内からは不快感を示す声も出ている。
寄稿の要旨
最近のパラマキ合戦のような政策論を聞いていて、やむにやまれぬ大和魂か、黙っているわけにはいかない、ここで言うべきことを言わねば卑怯(ひきょう)でさえあると思う。
数十兆円もの大規模な経済対策が謳(うた)われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、消費税率の引き下げまでが提案されている。
まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてくる。
すでに国の長期債務は973兆円、地方の債務を併せると1166兆円に上る。
GDP(国内総生産) の2.2倍であり、先進国でずば抜けて大きな借金を抱えている。
今の日本の状況を喩(たと)えれば、タイタニツク号が氷山に向かって突進しているようなものだ。
国民は本当にバラマキを求めているのか。
日本人は決してそんなに愚かではない。
「不都合な真実」もきちんと直視し、先送りすることなく、最も賢明なやり方で対処していかねばならない。
そうしなければ、将来必ず、財政が破綻するか、大きな負担が国民にのしかかってくる。
今回は、「心あるモノ言う犬」の一人として、日本の財政に関する大きな懸念について率直な意見を述べた。
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与党内に不快感 首相ら静観
■ 冷や水
「議論として、色んな考え方、意見は当然あっていい。
いったん方向が決まったら、しっかりと協力してもらわなければならない」
首相は10日のフジテレビの番組でこう述べた。
松野官房長官も11日の記者会見で「財政健全化に向けた一般的な政策論について私的な意見を述べたものだ」と受け流した。
4日に発足した岸田内閣は、新型コロナウイルス禍で「必要な財政支出はちゅうちょなく行う」と訴え、衆院選後にまとめる経済対
策で、事業者や子育て世帯などに給付金を支給する方針を打ち出している。
矢野氏の寄稿は、これら衆院選のアピール材料に冷や水を浴びせた形となった。
矢野氏は寄稿で、日本の財政状況を「(沈没した英国の豪華客船)タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなもの」と表現し、将来的な財政破綻に警鐘を鳴らした。
首相が総裁選で掲げた「数十兆円規模の経済対策」にも触れ、「まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてくる」と指摘した。
矢野氏は主税、主計両局長を歴任した後、今年7月に一橋大出身者として初めて財務次官に就任した。
12〜15日年には、当時官房長官だった菅前首相の秘書官も務めた。
省内きっての厳格な財政再建論者として知られ、「政治家が相手でも直言できる人物」と評される。
■ 反応様々
自民党の高市政調会長は10日のNHKの番組で「大変失礼な言い方だ。基礎的な財政収支にこだわって本当に困っている方を助けない。これほどばかげた話はない」と批判した。
自らの政権で積極財政を唱えてきた安倍元首相も「あの論文は間違っている」と周辺に語った。
公明党の山口代表は「財政を維持する観点からの一つの見識だ」と理解を示す一方で、高校3年生まで10万円相当を給付する同党の衆院選公約に関して「財源の制約も考え、配慮している」と反論した。
財務省内の反応は様々だ。
「堂々と名前を出して厳しい財政の現状を訴えた」と評価する声がある一方、「なぜ、衆院選を前に混乱を招くような行動を取るのか」と、異例の発信に首をかしげる者もいる。
自民党幹部は「政府内で主張すればいい話だ。対外的に発信すれば、政権の統治能力が疑われる。役人ののりをこえている」と指摘した。
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