Up ヒロイズム 作成: 2020-06-29
更新: 2020-06-29


      災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候。
      死ぬる時節には死ぬがよく候。
      是はこれ災難をのがるる妙法にて候。

    ヒロイズムは,これの正反対を行く。
    《自分は,災いを退けて民を救う者──救世主──になる》


    ヒロイズムは,つぎのストーリーになる。
    主人公には,障害がある。
    災いの兆しを理解しない/しようとしない者たちである。
    主人公は,彼らを説き伏せ,災いとの戦いを開始させる。
    戦争は勝利し,主人公はヒーローになる。

    こんなふうになるのは,映画である。
    現実は,映画ではない。
    ヒロイズムの戦争は,災難をはるかに超える災難になる。
    ゆえに,「災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候‥‥」となるわけである。


    しかし,「災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候‥‥」は,達観である。
    「災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候‥‥」を経験した者がわかることである。
    経験したことのない者は,「解決」を考える。
    「解決」は「戦争」である。
    そして「戦争」を己に負わせるもの,それがヒロイズムである。

    主人公は,災いの兆しを理解しない/しようとしない者たちを説き伏せ,災いとの戦いを開始させる。
    しかし「災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候‥‥」であるから,この「説き伏せる」は,それが何であれ結果的には「騙す」である。
    しかもこの主人公は,「目的は手段を合理化する」の考え方をする者である。
    「説き伏せる」は,意図的な「騙す」になる。
    無いことを有ると言う,百倍にして物を言う──をやっていくことになる。