(引用)

2000年10月09日
電力線インターネットが現実に 電源コンセントでネットをPCにつなぐ日

 電化製品の電力を供給する電源コンセント。家庭のどの部屋にもあるものだ。これを通信コンセントとして利用できればどうだろう。プラグをコンセントにつなぐだけで,インターネットに接続できる。これを可能にする電力線通信が具体化してきた。

 これまで電力線通信といえば,家電向けの制御用通信が一般的だった。制御データだけなので高速通信は不要。代表的なものに,白物家電を制御するための規格「エコーネット」があるが,データ伝送速度は9.6kビット/秒。インターネット接続には力不足だった。

 電力線インターネットは九州電力が企画しているもの。九州電力は,電信柱に光ファイバを張り巡らせた高速ネットを構築し,このネットを使ってインターネット接続サービスを提供する計画を持つ。電力線通信は,光ファイバと家庭を結ぶ場面で使う。

 システム構成はこうなる。家庭に置くのはパソコンと電源コンセントの間に設置する電力線モデム。電力線モデムは,パソコンのデータをアナログ信号に変換して電力線に送り込む。このアナログ信号は電信柱側に設置される親局設備で取り出され,ディジタル・データに変換された後,光ファイバ・ケーブルに送られる。電力線モデムの最大伝送速度は3Mビット/秒である。

 電力線モデムは三菱電機が開発した。採用した技術はOFDM(orthogonal frequency division multiplexing)。特徴は,狭い周波数帯域でも大量のデータを送信できること。計画中のディジタル地上波放送や,開発中の高速無線LAN「IEEE 802.11a」にも採用される予定の新技術である。

 OFDMという技術は以前から知られていたが,低コストで実現するのはなかなか難しかった。だが,LSIの集積化が進み,DSP(ディジタル信号処理チップ)を使うことで複雑なOFDMの処理をソフトウエアで実現できるようになった。

 電力線通信ではノイズが問題になる。電力線の先にはさまざまな電気製品がつながるが,この電気製品がノイズ源となるからだ。電気製品はオンにしたりオフにしたりするので,ノイズは一定でない。また,電力線がアンテナとなって拾ってしまう外部の電磁波もノイズとなる。三菱電機は,これらのノイズの影響を低減化する技術も新たに開発した。

 九州電力は,この11月から電力線インターネットの試験サービスを始める予定。実験結果が順調なら,2001年夏にも商用サービスを始めたい考えだ。

 ADSL,CATV,無線LAN−−。家庭に高速インターネット環境を持ち込むアクセス回線技術はいくつもある。九州電力の試験サービスの結果によっては,電力線通信が新たな選択肢として急浮上する可能性もある。(高橋 健太郎)