Up | 「温度」 | 作成: 2017-06-23 更新: 2023-09-18 |
日常生活では,「速さ」を実体概念にしている。 ここで,「速さとは?」と考える。 このとき,「速さ」は「経過時間とその間の移動距離の対応」のはなしになる。 「速さ」は,「経過時間とその間の移動距離の対応」の中から任意に時間幅をとり,その間に移動した距離で表される──「1時間で60km」とか。 時間幅を長くとると「平均の速さ」の趣きになる。 そこで考えは,「瞬間の速さ」へ進む。──「瞬間Δt とその間の移動距離Δs」。 (ここで記号「Δ」は,「微小」の気持ちを込めたものである。) 併せて,「瞬間の速さ」を改めて「速さ」と呼びたくなる。 実際の移動では,「速さ」は絶えず変化しているからである。 ここで,経過時間に対する移動距離の対応を,「関数」fで考える。 こうすると,「瞬間の速さ」が式で表せるようになる:
これを,一般化する。 関数fに対し,これから導かれる関数──「導関数」──として,関数f′ を定義する:
解析学では,伝統的に「y= f(x)」の表現を使ってきている。 そこで,「lim Δx → 0 ( f(x+Δx) ー f(x) ) /Δx」は,つぎのイメージになる:
実際,コンピュータプログラムで使ったら,シンタクスエラーになる。 一方,計算上たいへん便利である。──よって,使われてきているわけである。 しかし,曖昧な記号法であるから,これをうまく使えるようになるには,形式感覚・パターン感覚を養う必要がある。 論理にこだわるというのも,落ちこぼれのもとである。 落ちこぼれずに済む者は,形式感覚・パターン感覚でやり過ごせる者──要領のよい者──ということになる。 さて,こうして,「速さ」は,無味乾燥 (?) な「時間と距離の対応関係」に解消された。 「速さとは?」と考えたら,速さは無くなった。 《雲をつかまえようとして雲に近づいたら,霧 (水滴の浮遊) の相になり,雲は無くなる》のように,「速さ」もつかまえようとしたら無くなるものである。 ちなみに,これが,「非実体の存在論」である。
ふつうの観察体験である。
「温度とは?」と考え出すと,温度は無くなる。 この場合は,無味乾燥な「エネルギーとエントロピーの対応」のはなしになる。 即ち,温度は系の温度であるが,それは系の「エントロピー増大のエネルギーシフト」の<表現>である。 シフトの「速度」が,われわれに「温度」として感受されるというわけである。 ──「熱い・冷たい」「厚い・寒い」は,あくまでも感覚器の解釈である。 そこで「温度」の定義であるが,「速さ」の定義──時間tと距離sの対応の関数に対する ds/dt ──のように,エネルギーHとエントロピーSの対応の関数に対する dS/dH で定義する:
「エントロピー」は,「系」の一般論を立てるときは,基礎概念 (無定義) になる。 一方,「エントロピー」を基礎概念として立てる者は,「エントロピー」のイメージを持っている。 「エントロピー」の概念は,熱力学から来ており,統計力学では「系の状態数Wに対する logeW」──「状態数の桁数」──として定義される。 「状態数の桁数」であるから,実質「状態数」であり,「状態量」といった感じである。 なぜ,状態数そのものではなく,これの桁数をとるのか。 エネルギーH,状態数Wの系に,これと同じ系を合わせることを考える。 合わせた系は,エネルギーがH+Hに,状態数がW × Wになる。 しかし「温度」はこのとき変わらないとされるものであるから, 温度を d(状態数)/d(エネルギー) で定義するのはだめである。 「状態量」は,加法的でなければならない。 「状態量」を加法的にするために,状態数Wに対しつぎを「状態量」の定義にする:
Sに対して温度を dS/dH で定義すれば,同じ系を二つ合わせたときの温度は変わらない。 このSが,「エントロピー」がである。 温度 dS/dH ── d( logeW )/dH ──の表記としてβを用いる:
「温度」の定義はこれが理論的なものであるが,一方,生活で既に使われている「温度」──常用温度──がある。 理論的温度は,この常用温度からずれる。 そこで,「換算」が問題になる。 結論として,理論的温度βと常用温度Tの「換算」は,標準単位系 { m, kg, s, K } のもとで,つぎのようになる:
「β= 1/(kB T)」は,常用温度Tの理論的再定義である。 Tは,温度の高い・低いがβの逆になる。 熱力学は,常用温度を優先する立場から「βは,温度の高い・低いがTの逆になる」のとらえにして,βを「逆温度」と呼ぶ。 式「β= 1/(kB T)」により,「絶対零度」は理論的に存在しないものとなる。 ──「絶対零度」には理論的温度の「無限大」が対応するからである。 式「β= 1/(kB T) > 0」から,つぎの命題が導かれる: 現前の物理学は,「エントロピー/状態量」を
この形で定義した理由は,それまでの成り行きおよび使い勝手の事情ということになる。 「エネルギー」「エントロピー」──そしてこれから導かれる「温度」──は,「系」の一般理論を構築する概念になる。 熱力学/統計力学の解釈にとどまるものではない。 「エネルギー」「エントロピー」──そしてこれから導かれる「温度」──は,系ごとに相応しい読み方を当てることになるものである。 まとめ |