6.3 ストラティジー形成の実践における採用仮説


     問題解決能力形成機制論が白紙だからといって,ストラティジー形成が全くの白紙で実践されるわけではない。即ち,その実践には,それが拠って立つ仮説がなければならない。

     このような仮説としては,差し当たりつぎの二つが考えられる:

      (a) ストラティジーは,それを言い表わす日常文に対応する内的表象として所有される
      (b) ストラティジーは,それのプロトタイプとなる行為の内的表象として所有される
    また,両方が採られる場合もあるとする。

     (a),(b) は,現在“ストラティジー指導”と称されているものの観察から遡行して得られる。実際,ストラティジー指導では
      (A) ストラティジーを明示する(註)
      (B) ストラティジーを暗黙のままにする
    のいずれかであるが,現前の“ストラティジー指導”には両方がある。そして,実践 (A) には仮説 (a) が,実践 (B) には仮説 (b) が,それぞれ対応することになる。

     しかし (b) は,本来,合理主義的オリエンテーションからは外れる。合理主義的オリエンテーションは法則定立的オリエンテーションであり,“行為の内的表象”では法則の定立が望めない。

     そして,(b) が退けられるとき,(B) の形態の指導がストラティジー指導から退けられることになる。



    (註) 即ち,学習者の前でストラティジーをストラティジーとして直接ことばに表わし,これを標語のごとく学習者の内に浸透させる。