4.1 ライルの論理的行動主義


     ライル(G.Ryle)は,心理主義を“カテゴリー錯誤”の理由で阻却しようとする。即ち,行為を“心”を原因とする因果関係で説明しようとするとき,そこにはカテゴリー錯誤が生じているということである。

     ライルは,“心”を行動の傾向性と解釈する。このとき,“心と行動の因果関係”は“行動の傾向性と行動の因果関係”ということになる。そしてそれは,“傾向性”──〈事態−行動〉の連関(註1)──を,“行動の原因”として,行動と同じオーダーの事態として捉えるということである。これはカテゴリー錯誤である(註2)

     “心”を行動の傾向性と解釈して,心理主義をカテゴリー錯誤として阻却するライルの立場は,論理的行動主義と呼ばれる。



    (註1) “もし状況が・・・・ならば・・・・のような行動が発現する”という形の文(仮言命題)で表現されるところのもの。

    (註2) ライルはこのカテゴリー錯誤を,つぎのように喩えてみせる:
      大学内の個々の建物や施設と並んで,“大学”と呼ばれるものがあると思うこと。
    (このカテゴリー錯誤は,類概念をそれの要素概念と同列におく錯誤──タイプ錯誤──に準ずる。)ライルがここで言おうとしているのは,心というものを,心(傾向性)の個々の発現たる物理的に特定可能な存在者と同列に考えてはならないということである。