5.4 モジュールの否定


     従来の表象主義的モデルでは,“内的なもの”は,ブロック・ダイアグラムの中の一ブロックとして,あるいはサブシステムとして,示すことができた。例えば,知識の獲得,知識の変容が,図の上で,ブロックを付け足したり,ブロックのリンクの線やプロセスの流れを示す矢線を様々に書き込むといった形で,表現されてきた。

     実際,従来のAI研究では,このような表現をハードウェアおよびソフトウェアの設計に活用し,その手法を洗練してきたわけである。

     ところが,PDPモデルは非階層的単一システムであり,“内的なもの”のモジュール(コンポーネント)──例えば“知識”──は所在がない。神経細胞の関係性の布置から知識に対応する関係性の布置を(あたかもノイズを除去するように)取り出すことは──技術的に不可能という理由からではなく,原理的に無意味という理由で──不可能である。

     このように,PDPモデルは,ブロックチャートの否定である。それは,“もともと,モジュール(分節されるべきもの)などはなかった”と主張しているのである(註)



    (註) 特に,PDPモデルを,《ブロックチャートの各モジュール(コンポーネント)が,関係性の布置としての分節のない一枚のネットワークに融合したもの》と見るのは,ミスリーディングである。単に,はじめから分節がないのである。