Top

はじめに



 数学の主題は「形」である。このことは学科一般について言えることであるが,数学はこれを方法論としてことさらに明言する。数学教育を他の教科から区別するものは,数学科が分担して受け持つ「形」が他の教科のものとは違うというただ一点である。数学教育はある種の一般陶冶的役割をうけもつが,数学教育を特徴づけるものはこの一般陶冶的役割ではない。

 算数・数学科を指導する学校教師は,「把握していない物事の指導はあり得ない」という意味で,この教科の各主題を把握している者でなければならない。しかし,事実は必ずしもそうではない。特に,算数科の主題に対する小学教師の理解度の低さは一般的と言える。算数・数学科の主題の本質は「数学的形式」とわれわれが読んでいるところの「形」であるが,(学習者を問題にする以前に)学校教師においても十分自分のものになっていない。そして,一般陶冶的目標,指導法,評価法といった問題領域の強調が,この問題を隠蔽する。教員社会の風潮が,教師が自らを「知らない者」として自覚することを難しくしているとも言える。

 ただし,「形」指導は容易なものではない。現行の算数・数学教育は「形」指導として満足のいくものではないが,これに対し“しようとしていない”という言い方で批判はできない。現行に対しては,“「形」指導をするべきなのはわかっているが行うことはむずかしいと判断し妥協した結果”,という見方も立つのである。

 本論考では,以上のような認識に立って,数学教育の第一義を「形」指導として強調的に説きつつ,あわせて「形」指導の可能性について考えてみる。

Top