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2.1.2 “ペアノの公理”の読み方
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先ず,“系列”の図式
に対し,これの項全体の集合が集合
である。そして先頭の項が1である。
fは,各項にその直後の項(“後者(successor)")を対応させる関数である。
fが対応一般(一つの要素に複数の要素が対応することを許す)ではなく,一意対応(一つの要素に一つの要素が,しかもただ一つの要素が,対応する)としての関数であるという点は,本質的である。
“系列”の図式は,
のように枝分かれするものではない。この枝分れを禁止するのが,fが一意対応であるという条件である。
“何の後でもない”が“先頭”の意味である。そこで,条件1°によって,1を先頭として定義している。
しかしここで,先頭が一つに限るのかどうかが,心配になる。
他にも先頭があったとしよう。このとき,別々の先頭から出発する列は先でつながることはない。というのも,条件2°によって
の形が禁止されているからである。
そこで可能性として残るのは,
が互いに独立した複数の系列で成るという状態である。しかしこの状態は,条件3°
(註1)
によって禁止されている。実際,
のように
′をとると,
′は3°の中の
′の条件を満たしているから
′=
でなければならない。
結局,
は一本の系列でなければならないことになる。
また条件2°は,系列がどこかで終わる状態
を禁止することにも効いている。実際,
とすると,これはx=f(y) かつx=f(x) の場合である。ところがこのときには,条件2°よりx=yでなければならず,x≠yに反する。
いま,整数n≧0
(註2)
に対し,f
n
:
─→
を
f
n
=
fのn回の合成 (n>0)
恒等関数 (n=0)
で定義するとしよう。このとき,f
n
(1)(n≧0)の全体が
である
(註3)
。
そしてこのとき,生活実践の中の“1",“2",“3",・・・・に対して,“f
0
(1),f
1
(1),f
2
(1),・・・・の名”という解釈が,改めて立つことになる。
(註1)
条件3°は,“数学的帰納法の公理”と呼ばれる。
実際,命題関数P(x)に対する命題
“すべての自然数xに対しP(x)は真”
は,
′={x│x
かつP(x)}とおいたときの命題
“
′=
”
と同じ。そしてこれを条件3°を適用して証明するとき,条件3°を“数学的帰納法の公理”として用いたということになる。
(註2)
ここでの“整数n≧0”は,目下自然数を論じているところの言語(“メタ言語")に属する。したがって,後で,自然数の拡張としての整数が登場するが,循環論法ではない。
(註3)
条件3°の直接の適用。