「数とは何か?」への答え
いろいろな数がつくられるしくみ
数は量の比
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| 算数・数学科教材研究──数の定式化 |
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目 次
1 数の定式化の方法 2 数の自己完結的定式化
の定義──“ペアノの公理”
2.1.2 “ペアノの公理”の読み方 2.1.3 の構成的定義
2.1.3.2 自由半群からの“自然数の系”の導出 2.1.4 カテゴリカルな公理系 2.1.5 順序関係の導入 2.1.6 加法の導入 2.1.7 乗法の導入 2.1.8 の構造
2.2 数の拡張 2.3 “数の系”
2.3.2 数の系の構造 2.4 R
Rの定義
2.4.2 順序関係の導入 2.4.3 加法の導入 2.4.4 乗法の導入 2.4.5 Rの構造
2.4.6 Rの中への の埋め込み
2.4.7 “自然数の除法” 2.4.8 “アルキメデスの公理” 2.5 D(=整数の系 )
D の定義
2.5.2 順序関係の導入 2.5.3 加法の導入 2.5.4 乗法の導入 2.5.5 D の構造
2.5.6 D の中への の埋め込み
2.5.7 “自然数の減法” 2.5.8 乗法の解釈 2.6 ( D)R(=有理数の系 )
D)Rの定義
2.6.2 順序関係の導入 2.6.3 加法の導入 2.6.4 乗法の導入 2.6.5 ( D)Rの構造
2.6.6 ( D)Rの中への D の埋め込み
2.7 ( R)D
R)Dの定義
2.7.2 ( R)Dの中への Rの埋め込み
2.7.3 ( R)Dと( D)Rの同型性
2.8 “閉じた”拡張
R)Rと Rの同型性
2.8.2 ( D)Dと Dの同型性
2.8.3 ((( R)D)Rと RDの同型性
2.8.4 (( D)R)Dと RDの同型性
3 量に随伴する数 1
3.2 “量”の概念の領分 3.3 “量”の一般的形式 3.4 “量”に対する三つの二分法 3.5 内算法+が定義されている場合
3.5.2 “数の系”としての(Q,≦,+) 3.5.3 “数の系”の構成としての(Q,≦,+)の構成 3.5.4 離散量からの稠密量の構成と,稠密量からの離散量の導出 3.5.5 “比”の系 3.5.6 系((Q,≦,+),(N,≦,+,×),×) 3.5.7 “差”の系 3.5.8 系((Q,≦),((D,≦,+),(N,≦,+,×),×),+) 3.6 内算法+が定義されていない場合
3.6.2 “差”の系
3.6.2.2 (Q,≦)が稠密の場合 3.6.3 系((Q,≦),((D,≦,+),( DR,≦,+,×),×),+)
3.7 量の一般形((Q,≦),((D,≦,+),( DR,≦,+,×),×),+)
|
| 構成 | 条件規定 | |
| 自己完結 | ||
| 量に随伴 |
の定義──“ペアノの公理”
自然数の系は,先ず,集合 と, の一つの要素1と関数f: ─→ の組
,1,f)
の要素xは存在しない;
2° の要素x,yについてf(x)=f(y)ならばx=y;
3° の部分集合 ′は,つぎの条件を満たすとき,実は と一致している:
′の要素になっている;
xが ′の要素のとき,f(x)も ′の要素.
|

である。そして先頭の項が1である。fは,各項にその直後の項(“後者(successor)")を対応させる関数である。


が互いに独立した複数の系列で成るという状態である。しかしこの状態は,条件3°によって禁止されている。実際,

′をとると,
′は3°の中の
′の条件を満たしているから
′=
でなければならない。結局,
は一本の系列でなければならないことになる。


′={x│x
かつP(x)}とおいたときの命題
′=
”
─→
を
| fn = |
| fのn回の合成 (n>0) |
| 恒等関数 (n=0) |
である(註2)。
の構成的定義
,最初の項を1とする。そして写像f:
─→
を,各項にその後の項を対応させるものとして定義する。
,1,f)は,確かにペアノの公理を満たしている。
Qに対し,X+UをXの“後者”と定めるとき,Qはペアノの公理を満たす。さらに,+は,“自然数の系”としてのQにおいて定義される加法+(後述(§2.1.6))と一致する。
を,色々あるものとしてではなく,ただ一つのものとして意識している。したがって,ペアノの公理による“自然数の定義”が真に自然数の定義になっているためには,それによって自然数が一意に定まるのでなければならない。
,1,f)と(
,1,f)が同型であるとは,
と
の間の1対1対応h:
─→
で条件:
| 1° | h(1) = 1 |
| 2° | つぎの図式は可換: |
| |
,1,f)─→(
,1,f)”の概念の定式化は,このようになる。

の間の関係x≦yを,ある整数n≧0 に対してfn(x)=yとなることと定義する。また,x<yを,x≦yかつx≠yのことと定義する。
の上の順序関係──実際には,全順序関係──になる(註))。
x
y
の要素に対してここで定義した≦が全順序関係であることの証明は,つぎのようになる(証明の中の“+”や“−”は,証明の言語(“メタ言語")に属する):
の要素wが存在することになり,
の条件1°に反する。したがって,m+n=0,即ちm=n=0。結局,x=y。
はfn(1)(n≧0)の全体と一致する。一方m≦nのとき,fn-m(fm(1))=fn(1) より,,fm(1)≦fn(1)。
への乗法の導入も,これと正確に対応する形でなされる。
の構造
は,+,×のそれぞれについて可換半群をなし,+と×の間には分配法則が成り立つ。
は,≦と+に関して順序半群になる。即ち,m,n,p
についてつぎの関係が成り立つ:
m+p≦n+p.
(m+p=nとなるpが存在する)
は{1}から生成される。特に
の順序位相は離散である。
R)R
R
R)D
D)R
D
D)D
は自然数の系を表わし,( )R は“比”の表現に対応する数拡張,( )D は“差”の表現に対応する数拡張を表わすものとする(Rは比“Ratio”の‘R’,Dは差“Difference”の‘D’のつもり)。
R)R は
R と,(
D)D は
D と,(
R)D は(
D)R と,((
R)D)R は(
R)Dと,そして((
D)R)D は(
R)D と,それぞれ同一視できることになり,結局この拡張は
R
DR
D
RD は(
R)D(=(
D)R)を表わすものとする。そして,
D が整数の系
,
RD が有理数の系
ということになる。
R についての言い回しは“正の有理数の系”ということになる。しかし,有理数
RDが
Rの後に出て来るものであること,
Rが整数の
Dと並ぶ身分であること,そして
Rが算数科教材では“分数”として独立した主題を成していることを考えれば,本来,これにも何か一つの名を与え,見掛けともども独立の系として確立しておくべきであろう。
はこの意味での数の系になっている。
(後述)の部分
悳0} に
の構造の制限を考えたものも,数の系ということになる。
R
DR(“
") ─→─ ─→─
D(“
")
R
Rの定義
R に対応する生活実践は,量の比の処理である。
R を定義する。詳しく言うと,以下のようになる。
に対し,これの積集合
×
(自然数の対全体の集合)をとる。
×
の要素の間の関係〜を
m×n′=m′×n
×
の上の同値関係(
の類別を実現する関係)(註1)になっている。
×
を〜で類別して得られる類の集合を
Rと定義する。
×
を座標平面の形に表現された─×─の部分とみなすとき,つぎのように並ぶ点の各類が,
R の要素になる:
R の要素xは
の要素の対の類であるが,この類に対(m,n)が属するとき,mとnの名“m",“n"(註2)を用いてxを“m:n”あるいは
y〜x
x〜z

R に対し,x=s/r,y=t/r となるr,s,t
が存在する。このとき,x≦y をs≦tで定義する。── x,yを上のように表現したときの条件s≦tは,r,s,tの取り方に依存していない(註))から,この定義は意味をもつ。
R の上の全順序関係になっている。また,
Rは≦に関して稠密である。

R に対し,x=s/r,y=t/r となるr,s,t
が存在する。このとき,

R は,r,s,tの取り方に依存していない(註))から,この定義は意味をもつ。

R に対し,

が存在する。このとき,

R は,r,s,tの取り方に依存していないから,この定義は意味をもつ。
Rの構造
R は+について可換半群,×について可換群をなし,+と×の間には分配法則が成り立つ──特に,
R は導入した+,×に関して“数の系"(§2.3.1)になっている。

R の×に関する逆元をx-1で表わす。
Rは,≦と+に関して順序半群になる。即ち,x,y,z
Rについてつぎの関係が成り立つ:
x+z≦y+z.
Rの中への
の埋め込み
─→
R を

)
i(m)≦i(n)
,≦,+,×)を(
R,≦,+,×)の部分(i(
R),≦,+,×)と同一視できることになる。言い換えると,iによって,(
,≦,+,×)は(
R,≦,+,×)に埋め込まれる。またこの意味で,
Rは
の拡張である。

の表記を,i(n)
R の表記に流用する。
R の単位元。また,n
に対し
R においては,任意のm,n
─
R に対し,m×x=nとなるxが存在し,実際x=n/mである(註))。
において,m×p=nとなるpをn/m(“n÷m")で表わす。このときのn/mは常には定義されない。しかし定義されるときには,
の
R への埋め込みにおいて,
R の要素n/m──(m,n)の類として定義されるところのn/m──と一致することになる。
の
R への拡張は,自然数同士の除法をいつも可能であるようにする拡張”という言い方がされることがある。

R に対し,x×n>yとなるn
が存在する.
D(=整数の系
)
D の定義
D に対応する生活実践は,量の差の処理である。
D を定義する。詳しく言うと,以下のようになる。
に対し,これの積集合
×
(自然数の対全体の集合)をとる。
×
の要素の間の関係〜を
m+n′=m′+n
×
の上の同値関係(
の類別を実現する関係)になっている。
×
を〜で類別して得られる類の集合を
D と定義する。
×
を座標平面の形に表現された─×─の部分とみなすとき,つぎのように並ぶ点の各類が,
D の要素になる:
D の要素xは
の要素の対の類であるが,この類に対(m,n)が属するとき,xを(ここでは)mとnの名“m",“n"を用いて“n−m”と表現する。

に対する類n−nを,“0"で表わす。

D に対し,x=s−r,y=t−rとなるr,s,t
が存在する(註1)。このとき,x≦y をs≦tで定義する。── x,yを上のように表現したときの条件s≦tは,r,s,tの取り方に依存していない(註2)から,この定義は意味をもつ。
D の上の全順序関係になっている。

に対し,
n−m>0
n−m=0
n−m<0

に対し,q−p=(q+p′)−(p+p′),q′−p′=(p+q′)−(p+p′)。

D に対し,x=r−s,y=t−rとなるr,s,t
が存在する。このとき,x+y=t−s.

D は,r,s,tの取り方に依存していない(註1)から,この定義は意味をもつ。

D に対し,
D の要素n−m,q−pの表現に依存していないから,この定義は意味をもつ。
D の構造
D は×について可換半群をなし,+について可換群をなす──特に,
D は,導入した+,×に関して“数の系”になっている。

D に対し,xの対称元を−xと書く。

D が正元であることと,−xが負元であることとは,同値。また特に,以下のことが成り立つ(註1):
Dは,≦と+に関して,順序群になっている。即ち,x,y,z
Dについてつぎの関係が成り立つ(註2):
x+z≦y+z.
Dの順序位相は離散である。
D の中への
の埋め込み
─→
D を

)
i(m)≦i(n)
,≦,+,×)を(
D,≦,+,×)の部分(i(
),≦,+,×)と同一視できることになる。言い換えると,iによって,(
,≦,+,×)は(
D,≦,+,×)に埋め込まれる。またこの意味で,
D は
の拡張である。
)は,
D の正元全体と一致する(註2)。

の表記を,i(n)
D の表記に流用する。したがって,
D の負元は,あるn
に対する‘−n’で表現されることになる。

について,
Dは{1,−1}から生成される(註4)。

に対し,i(n)=(n+n)−n>n−n=0。また,
Dの正元はm<nであるm,n
に対するn−mの形に書けるが,m+k=nとするときn+k=m+(k+k)で,これよりn−m=(k+k)−k。

で,xを1のm回の累加,yを1のn回の累加,そしてm<nとする。

D)のn−m回の累加に等しい。
D においては,任意のm,n
─
D に対し,m+x=nとなるxが存在し,実際x=n−mである(註1)。
において,m+p=nとなるpをn−mで表わす(註2)。このときのn−mは常には定義されない。しかし定義されるときには,
の
D への埋め込みにおいて,
D の要素n−m──(m,n)の類として定義されるところのn−m──と一致することになる。
の
D への拡張は,自然数同士の減法をいつも可能であるようにする拡張”という言い方がされることがある。
D の要素の表現“n−m”
D の要素xの対称元の表現“−x”
においてm+p=nであるときの,pに対する表現“n−m”
の
D の拡張に応じて,
に対しての累加の概念が拡張される。

に対し,
D での“n回の累加”は
での“n回の累加”と同じ。そして“(−n)回の累加”の意味は,“x
Dに対する(−n)回の累加”が“xの対称元−xのn回の累加”と定義されるところのもの。
D)R(=有理数の系
)
D)Rの定義
から
R を導出したのと殆ど同じやり方で,
D から(
D)R を導出する。
D から0を除いた集合を
D*とするとき,
D*×
Dの要素の間の関係〜を
x×y′=x′×y
D*×
Dの上の同値関係になっている。
D*×
D を〜で類別して得られる類の集合を(
D)R と定義する

D*×
D が属する類を,“y/
D*×
D を座標平面の形に表現された─×─の部分とみなすとき,つぎのように並ぶ点の各類が,(
D)R の要素になる:
(
D)R に対し,x=s/r,y=t/r となるr
,s,t
D が存在する。このとき,x≦y をs≦tで定義する。
D)R の上の全順序関係になっている。また,(
D)Rは≦に関して稠密である。
(
D)R に対し,x=s/r,y=t/r となるr,s,t
D が存在する。このとき,x+y= s+t/r と定義する。
(
D)R に対し,x=s/r,y=r/t となるr,s,t
D が存在する。このとき,x×y=s/t と定義する。
D)Rの構造
D)R は+,×について可換体をなす──特に,
D は,導入した+,×に関して“数の系”になっている。
D)Rは,≦と+に関して順序体になる。即ち,x,y,z
(
D)Rについてつぎの関係が成り立つ:
x+z<y+z,
x×z<y×z.
D)Rの中への
D の埋め込み
D─→(
D)R は,((
D)R,≦,+,×)の中への(
D,≦,+,×)の埋め込みになる。またこの意味で,(
D)R は
D の拡張である。

D の表記を,i(n)
(
D)R の表記に流用する。
R)D
R)Dの定義
,≦,+,×)から(
D,≦,+,×)を導出したのと全く同じやり方で,(
R,≦,+,×)から((
R)D,≦,+,×)を導出する。
R)Dの要素は
R×
R の要素の類である。(x,y)
R×
R が属する類を“y−x”で表わす。
R×
Rを座標平面の形に表現された─×─の部分とみなすとき,つぎのような傾き1の直線(の部分)の各々が,(
R)D の要素になる:
R)Dの中への
Rの埋め込み
R─→(
R)D;x─→(x+x)−x は,(
R,≦,+,×)の((
R)D,≦,+,×)の中への埋め込みであり,かつi(
R)は(
R)Dの正元全体と一致する(註))。
R)Dと(
D)Rの同型性

─
Dと見る)
R)D ─→(
D)R は,((
R)D,≦,+,×)の((
D)R,≦,+,×)の上への同型になっている(註))。即ち,(
R,≦,+,×)からの((
R)D,≦,+,×)の導出と,(
D,≦,+,×)からの((
D)R,≦,+,×)の導出では,実質的に同じ対象がつくられる。

─
Dと見る)
D)R ─→(
R)D。
i(x)≦i(y)

─
D)

─
D)
R)D,(
D)R の恒等写像。
R)Rと
Rの同型性
,≦,+,×)から(
R,≦,+,×)を導出したのと全く同じやり方で,(
R,≦,+,×)から((
R)R,≦,+,×)を導出する。
R)R の要素は
R×
R の要素の類である。(x,y)
R×
R が属する類を‘y/x’
R×
R を座標平面の形に表現された─×─の部分とみなすとき,つぎのような直線(の部分)の各々が,(
R)R の要素になる:

)
R)R ─→
R は,((
R)R,≦,+,×)の(
R,≦,+,×)の上への同型になっている(註))。即ち,(
R,≦,+,×)からの((
R)R,≦,+,×)の導出では,実質的に,新しい対象はつくられない。

R)
R ─→(
R)R ──但しここで,1
─
R と見る。
i(x)≦i(y)
R)R の恒等写像。また,明らかに,i─jは
R の恒等写像。
D)Dと
Dの同型性
,≦,+,×)から(
D,≦,+,×)を導出したのと全く同じやり方で,(
D,≦,+,×)から((
D)D,≦,+,×)を導出する。
D)Dの要素は
D×
D の要素の類である。(x,y)
D×
D が属する類を“y−x”で表わす。
D×
D を座標平面の形に表現された─×─の部分とみなすとき,つぎのように並ぶ点の各類が,(
D)D の要素になる:

)
D)D ─→
D は,((
D)D,≦,+,×)の(
D,≦,+,×)の上への同型になっている(註))。即ち,(
D,≦,+,×)からの((
D)D,≦,+,×)の導出では,実質的に,新しい対象はつくられない。

D)
D ─→(
D)D。
i(x)≦i(y)
D)D の恒等写像。また,
D の恒等写像。
R)D)Rと
RDの同型性
D)R と(
R)D の同型の証明は,このときの
を
R に置き換えれば,そのまま((
R)D)R と((
R)R)D の証明になる。一方,(
R)R と
R の同型は,((
R)R)D と(
R)D の同型を導く。結局,((
R)D)R と(
R)D は同型。
D)R)Dと
RDの同型性
D)R と(
R)D の同型は,((
D)R)D と((
R)D)Dの同型を導く。一方,(
D)D と
D の同型の証明は,このときの
を
R に置き換えれば,そのまま((
R)D)D と(
R)D の証明になる。結局,((
D)R)D と(
R)D は同型。
Qに対し,{X}がXの近傍になるということ──であり,“稠密”とは,任意のX,Y
Qに対し,X<W<YとなるW
Qが存在するということである。
Qが存在して,任意のX
QがUの累加で表わされる;
Qが存在して,任意のX
QがUか−Uかどちらかの累加で表わされる。
Qと自然数m(註1)に対し,Qの要素でそれのm回の累加がXになるようなものが存在する。
Qに対し,或るU
Qが存在して,X,Yの両方がUの累加で表わされる(同じこととして(註2),或るV
Qが存在して,VがX,Y両方の累加で表わされる);
Q+に対し,或るU
Qが存在して,X,YがUの累加で表わされる(同じこととして,或るV
Qが存在して,VがX,Y両方の累加で表わされる).
,≦,+)”の概念は一致する。特に,下に有界な離散量は,(
,≦,+)──(
,≦,+,×)ではない──の実現ということになる。
Qに対しX+UをXの“後者”と定めるとき,Qはペアノの公理を満たし(§2.1.1),+は,“自然数の系”としてのQにおいて定義される加法+(§2.1.6)と一致する。また逆に,系(
,≦,+)は下に有界な離散量になっている(§2.1.8)。
D,≦,+)",“(
R,≦,+)",“(
DR,≦,+)"──(
D,≦,+,×),(
R,≦,+,×),(
DR,≦,+,×)ではない──と一致する(註))。
│
R
D │
DR
D,≦,+)が下に非有界な離散量であることは,§2.5.5 で示されている。(
R,≦,+),(
DR,≦,+)については,“等分可能性”と“共約可能性”が満たされていることを示す。
Rの場合: (i)“等分可能性”:m,n
と,任意の自然数kに対し,n/mはn/(m×k)のk回の累加。

に対し,n/m,n′/m′は,1/(m×m′)で共約される。
DRの場合: (i)“等分可能性”:x,y
Dでx≠0とする。任意の自然数kに対しzをxのk回の累加とするとき,y/xはy/zのk回の累加。

Dでx,x′≠0とする。y/x,y′/x′は,1/(x×x′)で共約される。
D,≦,+)が同型であること:

Dのn回の累加,−Uのn回の累加に−1
Dのn回の累加,そして0
Qに0
Dをそれぞれ対応させる写像i:Q─→
Dは,(Q,≦,+)の(
D,≦,+)の上への同型になる。
R,≦,+)が同型であること:
Rをつぎのように定義する。即ち,各X
Qに対し,UとXを共約するVをとり,UとXがVのそれぞれm,n回の累加であるときに,i(X)をn/mと定める。

Rに対し,m回累加してUになるもののn回の累加をXとすれば,i(X)=n/m。よってiは全射。
QとU,X,Yを共約するWに対し,U,X,YがそれぞれWのm,n,p回の累加であるとき,i(X+Y)=(n+p)/m=n/m+p/m=i(X)+i(Y)。
DR,≦,+)が同型であること:
,
D,
R,
DR と同値な概念であることから,特に,
の構成(§2.1.3),
からの
Dの構成(§2.5.1),
からの
Rの構成(§2.4.1),
Dからの
DRの構成(§2.6.1)は,それぞれ“下に有界な離散量(Q,≦,+)の構成",“下に有界な離散量(Q,≦,+)からの下に非有界な離散量(Q′,≦,+)の構成",“下に有界な離散量(Q,≦,+)からの下に有界な稠密量(Q′,≦,+)の構成",“下に非有界な離散量(Q,≦,+)からの下に非有界な稠密量(Q′,≦,+)の構成”ということになる。
,
R,
D,
RDのいずれかと同型である(§3.5.2)──に対するNRの考え方とそれの導出の仕方(§2.2,§2.4,§2.6,§2.8.1,§2.8.3)と同じである。
R,下に非有界であるときは
DRとなる。
Q×Qが属するとき,ξをY/Xと表わす。
,
R,
D,
RDのいずれかと同型──に対するND の考え方とそれの導出の仕方(§2.2,§2.5,§2.7,§2.8.2,§2.8.4)と同じである。
Dと同型,稠密であるときは
RDと同型である。したがってまた,(D,≦,+)は下に非有界な量であり,系((D,≦,+),(
DR,≦,+,×),×)として表現される。
Q×Qが属するとき,xをXYと表わす。
Qに対するi(X)
Dの読みは“X増”,−i(X)
Dの読みは“X減”である。Dの+は“増・減”の合成と読まれる。
Qに対し,X+XY=Y;
Qに対し,X+XY=Y(註2).
X<X+x.
Qに対し,
DR,≦,+,×),×)が作用+でつながっている系を,((Q,≦),((D,≦,+),(
DR,≦,+,×),×),+)で表現する。
Qが存在して,(X+x)+y=Z=X+XZ=X+(x+y)。
Qに対しf(X)をXの後者と呼ぶ;
Q′に対し,Xの後者も,Xを後者とするY
QもQ′に属する》.
Yに対しf(x)=yとなるx
Xが存在する)かつ単射(f(x)=f(x′)ならばx=x′)であること。
DR,≦,+,×),×)を導出する。
Qにそれの後者を対応させる関数f:Q─→Qのn回の合成fn に対し,fn(X)=Yのことを“YはXから上にn”,“XはYから下にn”と言い表わすことにする。
Q×Qが属する同値類をXYで表わす。また,XYを,YがXから上にnのとき“上にn”,下にnのとき“下にn”,X=Yのとき“零”と,それぞれ言い表わす。
DR,≦,+,×),×)になっている。
DR,≦,+,×),×)と,(Q,≦)の(D,≦)の中への埋め込みiを随伴する──但し,iは,(Q,≦)が下に有界のときは(D+,≦)の上への同型で,下に非有界のときは(D,≦)の上への同型である(§3.6.1)。
Q×Qの属する同値類をXYで表わす。
X<Y.
D+とX
Qに対し,Y=i-1(i(X)+x)とおくと,φ(XY)=(−i(X))+i(Y)=(−i(X))+i(X)+x=x,φ(YX)=(−i(Y))+i(X)=(−i(X))+(−x)+i(X)=−x。またφ(XX)=0。よって,φは全射。
DR,≦,+,×),×),+)
DR,≦,+,×),×)に対し,Qの要素Xに対するDの要素xの作用(“併進”)X+xを,§3.5.8 のときと同様に定義する。 (Q,≦)と((D,≦,+),(
DR,≦,+,×),×)が作用+でつながっている系を,((Q,≦),((D,≦,+),(
DR,≦,+,×),×),+)で表現する。
DR,≦,+,×),×),+)
DR,≦,+,×),×),+)の解釈が立つ。そこで,これを量の一般形と定める。