Up "メタ認知" の構造 作成: 2012-08-29
更新: 2012-08-29


    1 "メタ認知" の矛盾

     "メタ認知" は,表象主義と有限システムの立場に即くとき,矛盾を生ずる。
     実際,"メタ認知" の概念からは,"メタの無限累積" ──これは,"デカルトの小人" の無限後退と同型──が自ずと導かれる。表象主義に即いていることで,この"メタの無限累積" には認知モジュールの無限の入れ篭が応ずる。そしてこれは,有限システムの仮定と矛盾する。
     このように,"メタ認知" を阻却するのにわれわれは,表象主義の外に出る必要はない。表象主義の論理において,"メタ認知" は破綻する。
     破綻の原因は明らかである。即ち,〈言語〉の"タイプ理論" に対応して〈認知〉の"タイプ理論" をつくったことが錯誤だったのである。実際,認知には一つのタイプしかない──メタ表象に対応する認知は"メタ認知" である必要はない──としなければならないのである。


    2 "メタ認知" の構造

     以下では,"メタ認知" の構造──即ち,"メタ認知" として錯認される認知の構造──を,明らかにする。
     この目的のために,われわれは形式的記述──形式言語の文法の記述に類似した記述──を用いることにする。この形式的記述を用いることで,"メタ認知" の構造の議論を紛れのないものにすることができる。

    2.1 行為語,モニタ語,志向語
     先ず,語に関する"行為語","モニタ語","志向語" の三つのカテゴリーを導入する。
     二つの有限集合A,M,Iを定める。それぞれ,行為を表現する動詞の集合,モニタ行為を表現する動詞の集合,志向を表現する動詞の集合である。
     モニタ語を,つぎのように(再帰的に)定義する:
      (1) Mの要素はモニタ語である;
      (2) 二つのモニタ語x,yに対し,x∧y,x∨yはモニタ語である。
      (3) (1)と(2)によって生成される記号列のみがモニタ語である。

    また,これと全く同型に,志向語を定義する。
    そして,行為語をつぎのように(再帰的に)定義する:
      (1) Aの要素は行為語である;
      (2) モニタ語は行為語である;
      (2) 志向語は行為語である;
      (3) 二つの行為語x,yに対し,x∧y,x∨yは行為語である。
      (4) 行為語xとモニタ語yに対し,x←yは行為語である。
      (5) 行為語xと志向語yに対し,x<yは行為語である。
      (6) (1)-(5)によって生成される記号列のみが行為語である。

    ここで,x∧y,x∨y,x←y,x<yを,それぞれ"xかつy","xまたはy","x自分をy","xことをy" と読む(註)

    例: A={歌う,踊る},M={観察する,点検する},I={好む,欲する} からは,つぎのような行為語が生成される:
      歌う
      観察する
      好む
      歌うかつ踊る
      観察するかつ点検する
      好むかつ欲する
      歌うかつ観察する
      歌うかつ好む
      観察するかつ好む
      歌う自分を観察する
      歌うことを好む
      踊るかつ(歌う自分を観察する)
      踊るかつ(歌うことを好む)
      (歌う自分を観察する)自分を点検する
      (歌う自分を観察する)ことを好む
      (歌うことを好む)自分を点検する
      (歌うことを好む)ことを欲する
      ・・・・



    2.2 志向性(命題的態度)
     ここで,合理主義的オリエンテーションに従い,認知を志向性(命題的態度)と同一視する。
     志向性は,一般に,命題(陳述文)pと志向語Iに対する記号列I(p) で表わされる──但し,
      "pということ(事態)をI"
    と読む。
     ここでは,pを,行為語aに対する
      "わたしはa者である"
    という形の命題に限定し,
      I(わたしはa者である)
    をI(a) と略記する。このときI(a) の読みである
      "(わたしはa者である)ということをI"
    は,結局
      "aことをI"
    である。

    例: 行為語"歌う" と志向語"好む" から,志向性
      "(わたしは歌う者である)ということを好む"
    ──通常の言い回しでは,
      "歌うことを好む"


    2.3 "メタ認知" の構造
     以上の準備の下に,"メタ認知" ──"メタ認知" として錯認される認知──はつぎのように定式化される。
     即ち,行為語a,モニタ語m,志向語I,Jに対し,志向性
      J((a<I)←m)
    としての認知Aは,志向性
      I(a)
    としての認知Bの"メタ認知" と呼ばれる(錯認される)。

    例: 行為語"歌う",モニタ語"観察する",志向語"好む","欲する" に対し,志向性:
      "(歌うことを好む自分)を観察することを欲する"
    としての認知Aは,志向性:
      "歌うことを好む"
    としての認知Bの"メタ認知" と呼ばれる(錯認される)。

    2.4 "メタ認知" 錯認の構造
     認知J((a<I)←m) に対する"認知I(a) のメタ認知" の読みは,J((a<I)←m) をあたかも J(I(a)) のように受け取ってしまう錯認による。