Up 2.1.3 傾向性の把捉  


     物体xの質量はxの〈内〉によって決まる。しかしこのことは,〈内〉によらねば質量を知り得ないということを意味するのではない。実際,xの質量はxの運動の様相から伺い知られる。

     同様に,ある人の傾向性はその人の〈内〉──状態としての身体──により決まっているが,このことは,〈内〉によらねば傾向性を知り得ないことを意味するのではない。傾向性は,個々の状況においてその人がどのように振る舞うかを見ることで,知られるようになる。実際,われわれは人の傾向性を専らこのように判断してきた。逆に,われわれは〈内〉によって傾向性を計算する理論──即ち,《このような状況ではその人はこのような振る舞いをする》という予見を可能にするような〈内〉の理論──を持ち合わせていない。

     人の傾向性を知る方法には,二種類ある。即ち,観察と実験である。ここで"実験"とは,その人に直接働きかけて反応を見ようとするものである。"対話"は"実験"の一つである──通常,このようには意識されていないが。

     《人の傾向性の把捉は,専ら観察と実験の方法による》において第一次的な強調点となるのは,それの投機性ではない。《観察と実験が可能な方法になる》が強調点である。われわれのこの能力は,人知を超えている。(ここでの"人知"は,現時点で最高級のAIを作る能力という意味。)