Up 3.2.1 用在論的数学論  


     数学教育の機能の考察においては,それ相応の用在(註1)論的な数学論が必要となる。ここでは,そのための簡単な枠組みを二,三導入しておこう。

     先ず,数学の用在論的意義づけとして,道具と遊具の二つを考えよう。ここで"遊具"は苦しまぎれの造語だが,音楽とかコミックス等のわれわれにとっての意義を,金づちとか電話帳だとかの意義("道具")と対照させるためのものと理解されたい(註2)

     〈数学=道具/遊具〉を顕わす人々の実践は色々であり得るが,われわれはこのうち《道具/遊具を作る》と《道具/遊具を用いる》の二つのカテゴリーを問題にしよう。

     〈作る〉と〈用いる〉に関しては,
     (1) 制作者と使用者が別々にいて,前者が後者のために作る
     (2) 制作者と使用者が同じで,自分のために作る
     (3) 制作者集団がいて,道具/遊具作りの腕を競い合う
     (4) 使用者集団がいて,道具使用の腕を競い合う
    のカテゴリーを考えよう。
    特に"理論家"という言葉が成立するところでは,《制作者=理論家》として (3) が成立する。例えば,理論物理学者,哲学者,そして特に,ここでわれわれの関心になるところの数学者。


    (註1) 用在性(Zuhandenheit):用具的存在態様。

    (註2) 誤解はないと思うが,"道具・遊具"はコンテクストに依存して決まってくる意義である。