Up 3.4 〈数学=道具〉を使う言語ゲーム  


     〈数学=道具〉を使う言語ゲーム──"数学の応用"──にア・プリオリな要素はない。それは未知を既知にするように学習するしかない。

     例えば,赤インク 1cc を水 10cc で薄めたときの色と赤インク 2cc を水 20cc で薄めたときの色が同じになることを予知するために数学が応用できる。しかし,この場合に数学がしかるべく応用できるという事実は,純粋に経験的である。
    数学が応用できるためには,応用の対象になる素材について実に多くのことを知っていなければならない(註)。しかし一方,われわれは長い学習経験を通じて,この実に多くの知識を〈当たり前〉にしてきている。"当たり前"とは意識にさえ上らないということである。

     そこで,教師には自分の〈当たり前〉が見えない。そして,教師の〈当たり前〉が当たり前になっていない子どもが,それに躓く。


    (註) J.Piaget の構造主義的な認知発達観は,このことの閑却の故に誤まっている。