Up 5.7.2 テクスト選択の投機  


     "教える"とは,学習者の〈低迷〉(§3.7)を適切に導いて彼の〈覚醒〉を実現することである。教師は学習者の自己燃焼を煽り,方向づける。学習者は燃焼の意識的継続によって自らの状態を高め,そして遂に"覚醒"として臨界点を突破する。

     教師は"煽りと方向づけ"の目的で一つのテクストを選ぶ。この場合,教師は,伝来の知識によってあるいは自らの経験によって,そのテクストがうまくいくことを知っていてそれを選んだか,あるいは,全くの勘からそのテクストを選んだか,である。しかしいずれにしても,テクストの選択は根源的には〈投機〉である。実際,"それがうまくいくことを知っている"とは,"その投機がうまくいったことを知っている"ということなのだから。

     こうして教師は,自分が選んだテクストに対して学習者が所期の反応を示してくれることに──最終的には,ある言語ゲームの主体として覚醒してくれることに──〈賭ける〉。