-
問題解決機制論は,合理主義的オリエンテーション下の論考である。特に,問題解決は“情報処理システムの問題解決”へと理想化される。
-
この理想化の極は“コンピュータ・シミュレーション”の発想である。(但し,この発想は“主客の転倒”であり,本質的に倒錯である。)
-
問題解決機制論は,“問題"(外)と“心"(内)の二元論という体裁をとる。
-
問題の受容:
-
問題の受容は,心の機制によってそれの内的表象がつくられることである。この内的表象が,問題解決主体にとっての問題になる。特に,問題解決論では二種類の“問題”──問題解決主体から独立な存在としての“問題”と問題解決主体に依存する“問題”──が,それぞれ実体として措定される。
-
二様の“問題”の措定に応じて,二種類の“意味”概念を導入しなければならなくなる。即ち,字義的意味と文脈依存的意味である。
-
“問題の受容”の以上の論点は,合理主義的オリエンテーションの一般的論点の適用に他ならない。
-
問題空間:
-
問題解決は,自動機械(オートマトン)の動作として解釈される。
-
《問題解決は人に依存する》という事実は,自動機械の
の違いとして解釈される。
-
問題解決:
-
問題解決は,表象に表象が作用する──表象Rに対し或る表象Sが選択され,そしてRにSが適用される──というメカニズムで説明される。表象に作用する表象(手続き的表象)は,“ストラティジー”と呼ばれる。
-
即ち,《ストラティジーの選択とそれの適用》により,所与の問題に対応する表象が次第に解に対応する表象に変化していくという図式である。
-
ストラティジーの選択が問題空間の探索として捉えられ,問題解決が“問題空間の探索”として表現される。
-
この探索は,ストラティジーが適用される表象をノードとし,ストラティジーを選択肢とする木 tree で表現される。
-
ストラティジーの所有:
-
“問題解決”の以上の規定により,“ストラティジーの所有”が問題解決の内的な要件であることになる。
-
“ストラティジーの所有”の概念は,“ストラティジーの所有形態”,“ストラティジーの発動形態”の問題をもたらす。
-
合理主義的なオリエンテーションに従うならば,ストラティジーは内的な命題として所有され,そして命題的態度 propositional attitude として発動していることになる。
-
問題解決機制論のほころび──ストラティジー発動の機制の問題:
-
“ストラティジーの選択”の概念は,“ストラティジー発動の機制”の問題を引き起こす。
-
“メタ認知”の概念が,ストラティジーに対する“driving force”として導入されることがある。しかしこれは,解決をもたらすものにはならない。実際,メタ認知の実体はメタ表象であるとされるので,“メタ認知”の導入は新たなストラティジーの導入に他ならず,したがってそれは単に“ストラティジー発動”の無限後退の問題をもたらすだけである。
-
問題解決機制論の基底(ブラックボックス):
-
ストラティジー発動の無限後退の論難を免れるためには,ストラティジー発動を表象の作用とは異なる事態として考えなければならない。
-
即ち,ストラティジー発動は,自動機械のプログラムとして理解されねばならない。
-
“プログラム”の概念を問題解決主体に移すならば,それは“傾向性”になる。結局,問題解決論は,その根底に“傾向性”というブラックボックスを用意しなければならない。この事態は,“説明はどこかで終わらなければならない”という Wittgenstein のことばと符合する。
|