Up 「双対」の導入 作成: 2017-12-17
更新: 2018-02-20


    長方形の面積の公式は,「タテ×ヨコ」で,掛け算の形。
    速さの公式は,「距離÷時間」と,割り算の形。
    さて,これは,公式には掛け算タイプと割り算タイプの二つがあるということなのか?

    こう問うのは,掛け算か割り算かは,本質的でないように思われるからである。
    即ち,量の設定を変えれば,割り算は掛け算に変わるのではないか?
    「距離÷時間」の場合だと,時間のとらえを何か別の「時間*」に変えて,速さの公式を「時間* ×距離」にできないか,ということである。

    このような考えをもつのは,要するに,割り算を無くしたいからである。
    なぜか。
    これができれば,掛け算と割り算でなる公式は,掛け算のみの形にできる。
    掛け算のみの形になった公式は,「テンソル」になる。
    そうすると,テンソルの構造論として,公式の構造を主題化できることになる。


    係数体Kの量Qの単位 \( \bf u \) からは,つぎの二つの関数が導かれる:
      \[ {\bf u}^+ : K \longrightarrow Q \\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ k \longmapsto k\, {\bf u} \\ {\bf u}^* : Q \longrightarrow K \\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ k\, {\bf u} \longmapsto k \]
    Qは,体K上の線型空間である。
    Kは,K上の線型空間になる。
    さらにつぎが,K上の線型空間になる:
      KからQへの線型写像全体 \( Hom(K, Q) \)
      QからKへの線型写像全体 \(Hom(Q, K) \)
    そして,\( {\bf u}^+ \in\, Hom(K, Q) ,\ {\bf u}^* \in\, Hom(Q, K) \) である。

    \( {\bf u}^+ \) と \( {\bf u}^* \) は, 互いに逆関数である。
    この二つを「双対」と見る。
    併せて,\( Hom(K, Q) \) と \(Hom(Q, K) \) を「双対」と見る。

    つぎは,同型写像である:
      \[ {\bf u} \longmapsto {\bf u}^+\,; \quad Q \longrightarrow Hom(K, Q) \\ {\bf u} \longmapsto {\bf u}^*\,; \quad Q \longrightarrow Hom(Q, K) \\ \]
    数学の慣行では,\( Hom(K, Q) \) をQと同一視する。
    そして \(Hom(Q, K) \) の方を,Q* で表し,Qの双対と呼ぶ。

      註: この慣行は,「双対」の意味──その形式──を見え難くするものであり,好ましいものではない。


    はじめの問いに戻る:
      《時間のとらえを何か別の「時間*」に変えて,
       速さの公式を「時間* ×距離」にできないか?》

    答えは,「できる」であある。
    実際,つぎのものが,求める「時間*」である:,
      \(Hom( 時間, \mathbb{R})\)

     ── 「テンソル「時間* ×距離=速さ」」へ続く