Up 「反変・共変」 作成: 2017-12-17
更新: 2018-02-27


    ここでは,時間とこれの双対空間の時間* をセットにして,「反変・共変」の概念の押さえをする。


    時間の単位 \( {\bf s}\) に対し,\( {\bf t} = x\, {\bf s} \) であるとする。
    ここで,単位の変換をする:
        \( {\bf s^{'}} = a\, {\bf s} \)
    \( {\bf s}^{'} \) に対し \( {\bf t} = x^{'}\, {\bf s^{'}} \) となるとき,
      \[ x\, {\bf s} = x^{'}\, {\bf s^{'}} = x^{'}\, a\, {\bf s} \ \ \Longrightarrow\ \ x^{'} = \frac{1}{a} x \]
    単位がa倍になると,測定値は a-1 になる。


    単位変換に対し,双対単位はどう変化するか。
    \( {\bf t} = x\,{\bf s} = x'\,{\bf s'} = x'\,a\,{\bf s} \) に対し,
      \[ {{\bf s}^{'}}^*({\bf t}) = {{\bf s}^{'}}^*(x'\,{\bf s}^{'}) = x'\,{{\bf s}^{'}}^*({\bf s}^{'}) = x' \\ {\bf s}^*({\bf t}) = {\bf s}^*(x\,a\,{\bf s}) = x\,a\,{\bf s}^*({\bf s}) = x\,a \\ \ \ \Longrightarrow \ \ {{\bf s}^{'}}^*({\bf t}) = a^{-1} {\bf s}^*({\bf t}) \\ \ \ \Longrightarrow \ \ {{\bf s}^{'}}^* = a^{-1} {\bf s}^* \]
    即ち,時間の単位がa倍になると,これの双対単位は \( a^{-1} \) 倍になる。

    双対単位による測定値は,どうか。 \( x\, {\bf s^*} = x^{'}\, {\bf {s^{'}}^*} \) のとき,
      \[ x^{'} = x^{'}\, ({\bf {s^{'}}}^*({\bf s^{'}})) = x^{'}\, ({\bf {s^{'}}}^*(a\, {\bf s})) = (x^{'}\, {\bf {s^{'}}}^*)(a\, {\bf s}) \\ = (x\, {\bf s^*})(a\, {\bf s}) = x\, ({\bf s^*}(a\, {\bf s})) = (x\,a)\, ({\bf s^*}({\bf s})) \\ = x\,a \]
    即ち,時間の単位がa倍になると,これの双対単位による測定値は a倍になる。


    時間の単位の \(a\) 倍に対し \(a\) 倍になることを「共変」,\(a^{-1}\) 倍になることを「反変」,ということにすると,つぎのようになる:
       時間の単位の変化に対し,
     時間の単位の変化は共変,時間の単位による測定値の変化は反変
     時間* の単位の変化は反変,時間* の単位による測定値の変化は共変

    基底や座標に添字をつけることをここまでやってきているが,上付け・下付けの別は,共変・反変を規準につけてきている。


    ここで,《「共変・反変」を規準に,添字を付ける》を,一般のn次元ベクトル空間 \(V\) とこれの双対空間 \(V^*\) に対して考える (量は1次元ベクトル空間である)。

    このときの「量 → n次元ベクトル空間」は,つぎがこれの内容である:
    1. 単位 \(\bf u\)
        → 基底 \({\bf e} = ({\bf e}_1,\cdots,{\bf e}_n)\)
    2. \(\bf u\) に対する \(\bf x\) の 値 \(x\) (数)
        → \(\bf e\) に対する \(\bf x\) の 座標
          \[ \left( \begin{array}{c} x^1 \\ \vdots \\ x^n \\ \end{array} \right) \]
    3. \(\bf u\) の変換 : \( {\bf u'} = a\, {\bf u} \)
        → \({\bf e} \) の変換:
          \[ ({\bf e'}_1 \,\cdots\,{\bf e'}_n) = ({\bf e}_1 \,\cdots\,{\bf e}_n) \left( \begin{array}{ccc} a^1_1 & \cdots & a^1_n \\ & \cdots & \\ a^n_1 & \cdots & a^n_n \\ \end{array} \right) \]
    4. 単位変換に伴う値変換 : \(x' = a^{-1} x \)
        → 基底変換に伴う座標変換
          \[ \left( \begin{array}{c} {x'}^1 \\ \vdots \\ {x'}^n \\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} a^1_1 & \cdots & a^1_n \\ & \cdots & \\ a^n_1 & \cdots & a^n_n \\ \end{array} \right)^{-1} \left( \begin{array}{c} x^1 \\ \vdots \\ x^n \\ \end{array} \right) \]


    \({\bf e}\) の変換に対し,\({\bf e}\) 自身は共変である。
    このことを,\({\bf e}\) を構成するベクトルの添字を下付けにすることで表している。

    \({\bf e}\) の変換で,これに対応する座標変換は反変である。
    このことを,座標の添字を上付けにすることで表している。

    \(a^i_j\) の添字の上下については,つぎの「i が分子側,j が分母側」がこれの説明になる:
    \[ x^i = \sum_k a^i_k {x'}^k \\ \Longrightarrow \frac{\partial x^i}{\partial {x'}^j} = \frac{\partial}{\partial {x'}^j}\left( \sum_k a^i_k {x'}^k \right) = \sum_k a^i_k \frac{\partial {x'}^k}{\partial {x'}^j} = \sum_k a^i_k \delta^k_j \\ \qquad = a^i_j \]

    基底 \(\bf e\) に対し,
        \[ e^* = \left( \begin{array}{c} {{\bf e}_1}^* \\ \vdots \\ {{\bf e}_n}^* \\ \end{array} \right) \]
    は,\(V^*\) の基底になる。──これを, \(\bf e\) の双対基底と呼ぶ。

    双対基底について,つぎが成り立つ:
        \[ \left( \begin{array}{c} {{\bf e'}_1}^* \\ \vdots \\ {{\bf e’}_n}^* \\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} a^1_1 & \cdots & a^1_n \\ & \cdots & \\ a^n_1 & \cdots & a^n_n \\ \end{array} \right) ^{-1} \left( \begin{array}{c} {{\bf e}_1}^* \\ \vdots \\ {{\bf e}_n}^* \\ \end{array} \right) \]
    即ち,\(e\) の変換に対し,\(e^*\) は反変である。

    \(e^*\) に対する座標──双対座標と呼ぶ──は,\(e^*\) の変換に対し反変である。 したがって,\(e\) の変換に対しては,共変となる。


    共変・反変の区別は,ゆるがせにできない。
    量計算で数値を「分母の方におくか・分子のほうにおくか」と対応する内容だからである。
    共変・反変の区別は,「共変・反変を区別できないと量計算はできない」というほどの内容なのである。