ここでは,時間とこれの双対空間の時間* をセットにして,「反変・共変」の概念の押さえをする。
時間の単位 \( {\bf s}\) に対し,\( {\bf t} = x\, {\bf s} \) であるとする。
ここで,単位の変換をする:
\( {\bf s^{'}} = a\, {\bf s} \)
\( {\bf s}^{'} \) に対し \( {\bf t} = x^{'}\, {\bf s^{'}} \) となるとき,
\[
x\, {\bf s} = x^{'}\, {\bf s^{'}} = x^{'}\, a\, {\bf s} \ \ \Longrightarrow\ \ x^{'} = \frac{1}{a} x
\]
単位がa倍になると,測定値は a-1 になる。
単位変換に対し,双対単位はどう変化するか。
\( {\bf t} = x\,{\bf s} = x'\,{\bf s'} = x'\,a\,{\bf s} \) に対し,
\[
{{\bf s}^{'}}^*({\bf t})
= {{\bf s}^{'}}^*(x'\,{\bf s}^{'})
= x'\,{{\bf s}^{'}}^*({\bf s}^{'})
= x'
\\
{\bf s}^*({\bf t})
= {\bf s}^*(x\,a\,{\bf s})
= x\,a\,{\bf s}^*({\bf s})
= x\,a
\\
\ \ \Longrightarrow \ \ {{\bf s}^{'}}^*({\bf t}) = a^{-1} {\bf s}^*({\bf t}) \\
\ \ \Longrightarrow \ \ {{\bf s}^{'}}^* = a^{-1} {\bf s}^*
\]
即ち,時間の単位がa倍になると,これの双対単位は \( a^{-1} \) 倍になる。
双対単位による測定値は,どうか。
\( x\, {\bf s^*} = x^{'}\, {\bf {s^{'}}^*} \) のとき,
\[
x^{'}
= x^{'}\, ({\bf {s^{'}}}^*({\bf s^{'}}))
= x^{'}\, ({\bf {s^{'}}}^*(a\, {\bf s}))
= (x^{'}\, {\bf {s^{'}}}^*)(a\, {\bf s}) \\
= (x\, {\bf s^*})(a\, {\bf s})
= x\, ({\bf s^*}(a\, {\bf s}))
= (x\,a)\, ({\bf s^*}({\bf s})) \\
= x\,a
\]
即ち,時間の単位がa倍になると,これの双対単位による測定値は a倍になる。
時間の単位の \(a\) 倍に対し \(a\) 倍になることを「共変」,\(a^{-1}\) 倍になることを「反変」,ということにすると,つぎのようになる:
|
時間の単位の変化に対し,
時間の単位の変化は共変,時間の単位による測定値の変化は反変
時間* の単位の変化は反変,時間* の単位による測定値の変化は共変
|
基底や座標に添字をつけることをここまでやってきているが,上付け・下付けの別は,共変・反変を規準につけてきている。
ここで,《「共変・反変」を規準に,添字を付ける》を,一般のn次元ベクトル空間 \(V\) とこれの双対空間 \(V^*\) に対して考える (量は1次元ベクトル空間である)。
このときの「量 → n次元ベクトル空間」は,つぎがこれの内容である:
- 単位 \(\bf u\)
→ 基底 \({\bf e} = ({\bf e}_1,\cdots,{\bf e}_n)\)
- \(\bf u\) に対する \(\bf x\) の 値 \(x\) (数)
→ \(\bf e\) に対する \(\bf x\) の 座標
\[
\left(
\begin{array}{c}
x^1 \\
\vdots \\
x^n \\
\end{array}
\right)
\]
- \(\bf u\) の変換 : \( {\bf u'} = a\, {\bf u} \)
→ \({\bf e} \) の変換:
\[
({\bf e'}_1 \,\cdots\,{\bf e'}_n)
=
({\bf e}_1 \,\cdots\,{\bf e}_n)
\left(
\begin{array}{ccc}
a^1_1 & \cdots & a^1_n \\
& \cdots & \\
a^n_1 & \cdots & a^n_n \\
\end{array}
\right)
\]
- 単位変換に伴う値変換 : \(x' = a^{-1} x \)
→ 基底変換に伴う座標変換
\[
\left(
\begin{array}{c}
{x'}^1 \\
\vdots \\
{x'}^n \\
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{ccc}
a^1_1 & \cdots & a^1_n \\
& \cdots & \\
a^n_1 & \cdots & a^n_n \\
\end{array}
\right)^{-1}
\left(
\begin{array}{c}
x^1 \\
\vdots \\
x^n \\
\end{array}
\right)
\]
\({\bf e}\) の変換に対し,\({\bf e}\) 自身は共変である。
このことを,\({\bf e}\) を構成するベクトルの添字を下付けにすることで表している。
\({\bf e}\) の変換で,これに対応する座標変換は反変である。
このことを,座標の添字を上付けにすることで表している。
\(a^i_j\) の添字の上下については,つぎの「i が分子側,j が分母側」がこれの説明になる:
\[
x^i = \sum_k a^i_k {x'}^k
\\ \Longrightarrow
\frac{\partial x^i}{\partial {x'}^j}
= \frac{\partial}{\partial {x'}^j}\left( \sum_k a^i_k {x'}^k \right)
= \sum_k a^i_k \frac{\partial {x'}^k}{\partial {x'}^j}
= \sum_k a^i_k \delta^k_j
\\ \qquad = a^i_j
\]
基底 \(\bf e\) に対し,
\[
e^*
=
\left(
\begin{array}{c}
{{\bf e}_1}^* \\
\vdots \\
{{\bf e}_n}^* \\
\end{array}
\right)
\]
は,\(V^*\) の基底になる。──これを, \(\bf e\) の双対基底と呼ぶ。
双対基底について,つぎが成り立つ:
\[
\left(
\begin{array}{c}
{{\bf e'}_1}^* \\
\vdots \\
{{\bf e’}_n}^* \\
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{ccc}
a^1_1 & \cdots & a^1_n \\
& \cdots & \\
a^n_1 & \cdots & a^n_n \\
\end{array}
\right)
^{-1}
\left(
\begin{array}{c}
{{\bf e}_1}^* \\
\vdots \\
{{\bf e}_n}^* \\
\end{array}
\right)
\]
即ち,\(e\) の変換に対し,\(e^*\) は反変である。
\(e^*\) に対する座標──双対座標と呼ぶ──は,\(e^*\) の変換に対し反変である。
したがって,\(e\) の変換に対しては,共変となる。
共変・反変の区別は,ゆるがせにできない。
量計算で数値を「分母の方におくか・分子のほうにおくか」と対応する内容だからである。
共変・反変の区別は,「共変・反変を区別できないと量計算はできない」というほどの内容なのである。
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