0.5 新しい数指導の構想
現行の数指導を“ノウハウの指導”と特徴づけてきましたが,この意味は,
数(形式)の使用の指導を以って数(形式)の主題化に代えている
ということです。数を使用(“いかに")の中に埋没させ,数そのものの存在性(“何")を曖昧化します。そしてこの指導法のつけが,早晩学習者に回ってきます。
誰しも,できるものなら数学教育を
《“いかに"(“人の生活")が“何”から生成できる》
ように設計したいと思っているでしょう。ただ,それを現実的に可能と考えるか不可能と考えるかの認識の違いしかありません。そしてわたしとしては,いまは可能と考える立場に即き,数指導の中で《数を存在として自立させる》方途を探ろうとしているわけです。
したがって,数の新しい指導体系としてわたしの構想するものは,現行の内容を取り替えるものではありません。いまある内容を単に異なる形で現わそうとするものです。その方法は,標語化して言えば,“直接性の回復”ということになります。
例えば,自然数を“系列”として主題化する,分数を“量の整数比”として主題化する,“正負の数”を“量の対称化に応ずる係数の対称化”として主題化する,特に,量のサブ・システムとしての数の意義を主題化する(註),ということです。
現行の数指導は,“いかに”で以って“何”を代えることにより,直接性を失っています。しかし,何度も繰り返しますが,あるレベルになると“何”を理解せずには“いかに”についていくことができなくなります。“直接性の回復”の目的は,“何?”と問えることができ,これに答えることができるようにすること,そして数学に対する生成的な理解を実現することです。──教材から“いかに"(“人の生活")をなくして無意義な形式だけを残すということではありません。“いかに”が生成されるような理解を実現するということです。
(註) これは,“量数一元論”と“量数二元論”を同時に阻却するものです。