0.7 本論考の内容




 本論考では,全11章を用いて“数/量”の主題を探究します。

 第1章《数/量の主題》では,“数/量”の主題の内容──“数/量”の意義──を,論点を示しつつ概説的に述べます。
 数は自立したシステムですが,使用されるそれは,一つのシステムにサブシステムとして組み込まれます。数をサブシステムとして含むこのシステムは,日常語の“量”に対応します。特に,算数/数学科での数の主題化は,同時に量の主題化になります。

 第2章《数/量の存在論》では,数/量の存在について行論します。
 “数/量”は読みとして起こります。即ち,人の生活──ウィトゲンシュタインの謂う“言語ゲーム”──が先ずあり,そこに“数/量”が読まれます。“数/量”が読まれるとは,一つのシステムが読まれるということです。数/量とは数/量形式です。
 読みとして虚構であることは,これが実現されることを妨げません。ここに,“数/量の表現”の主題が立ちます。
 こうして“数/量”という虚構は二種類の具体に支えられています。それの母体である言語ゲームと,表現メディアです。

 第3章《数形式──“数の系"》では,数形式を定めます。それは,一つの集合Nの上の代数的,順序的,および位相的構造を定めるという形で行なわれます。数形式の記述として示されたこのシステム (N,+,×) ないし (N,+,×,≦) が,“数の系”です。

 分数および整数の系は,それぞれ自然数の系 (,+,×) の比の系および差の系として,自然数から導出されます。第4章《数の系からの比の系と差の系の導出》では,この導出を,数の系 (N,+,×) からのそれの比の系 (NR,+,×) および差の系 (ND,+,×) の導出として,一般的に論じます。──ここで,Nの添え字の R,D は,それぞれ比“Ratio”の‘R’と差“Difference”の‘D’です。

 第5章《“数”の実現》では,“数”の実現──《“数"という形式をもつものの実現》として──の実際を確認します。
 “数”の実現は純粋に各論です。しかしもちろん,“数”は実現のために実現されたものではありません。数の実現は既に知られているものの理論的後追いです。
 この作業は,自然数から出発します。自然数の本義は(“ペアノの公理”という形で定式化されるところの)“系列”です。
 “数”の実現は,以下,“数の拡張”という形で進められます。
 最初の拡張のアイデアは,比の系と差の系の導出です。差の系の導出は“数の系の対称化”でもあります。
 自然数の系に対するこの拡張は,分数の系と整数の系をもたらします。さらに,分数の差の系の導出ないし整数の比の系の導出として,有理数の系が導出されます。そして,比の系と差の系の導出という形での数の拡張は,有理数で閉じます。
 有理数の系から新しい数の系を導出するアイデアは,連続化です。実際,連続化の方法によって実数の系が得られます。そして,連続化による数の拡張はここで閉じます(“実数の連続性")。
 実数の系から新しい数の系を導出するアイデアは,多元体への拡張です。実際,実数体の2次元多元体への拡張として複素数の系が,4次元多元体への拡張として四元数の系が,それぞれ得られます。

 第6章《量/位形式》では,数形式に意義を与える形式としての“量形式”および“位形式”の概念を導入します。
 数形式の意義は,《ある一つの形式にこれの部分形式として数形式が組み込まれる》という形で表わすことができます。数形式を部分として含むこの形式は,量形式ないし位形式です。(量形式は位形式の部分形式です。)
 実際,数の意義は量の作用素/係数(スカラ) であり,数の使用の相は“量/位”です。そしてここで示す量/位形式は,量/位(=数の使用)の“普遍対象”として理解可能なものです。

 第7章《数/量の絵》では,数/量の絵の論理を確認します。学校数学では数や量の直線表示も主題になりますが,このときの直線は数/量の絵です。

 “量測定",“単位系の変更",“量の比例関係",“比例関係の計算”といった主題は,量と数のカテゴリー論の主題に他なりません。第8章《数,量,位のカテゴリー》では,このことを見ていきます。

 現有の量から新しい量を導出する手法があります。即ち,比例関数を要素とする量の導出と,量の積の導出です。第9章《量の派生》では,この二つについて見ていきます。

 第10章《量/数計算》では,“量/数計算”の意味を確認します。
 “計算”とは,式変形規則に従った一連の式変形のことです。この式変形規則には,数/量の実現形態──例えば“十進数”──に依存するものと,そうでないものが存在します。ここでは,前者を“公式”,後者を“法則”と呼んでおきます。
 法則は,この場合,数/量形式(の含意)です。

 量記述の形式は《単位×数》ですが,この形の記述をつくることが量測定の意義です。そしてこの意義は,実践によってはじめて実現されます。 量測定は量処理の出発になる実践であり,実践的な問題がこの中から生起します。単位の選択の問題,単位のシステム化の問題,単位の共同性の問題,測定値の表現の問題として起こる命数/記数法の問題,計器の問題,“はした”処理の問題,等です。第11章《量測定の実践》では,これらのことについて見ていきます。