1.5.4 “量”の従来の規定法



 わたしは“量”を量形式の〈読み〉と定め,かつ量形式を数依存で定義したが,“量”の従来の規定法はこのようではない。これには,つぎのようなものがある:

  1. 事実上ただ一つの数に依存する量形式を“量”と定めるもの──実際,実数に依存する量形式を“量”と定めるもの(註1)
  2. 量の条件として,順序関係の存在やアルキメデスの公理などを列挙するもの(註2)
  3. 色々な対立概念の組み合わせで量の類化を行なうもの(註3)
  4. 存在の錯認(特に,量の実在論)に根付く量の類化(註4)

 本論で定義する“量”は,(1) を特殊として含む。また (2),(3) において“量”の定義に用いられる条件が,本論では“量”の定義から導出される命題になる。

 強調しておくが,本論の立場では“量”は“数”の種類だけある。そして,量の系がどの数の系を因子としているかによって,量の系の含意が自動的に決定されてしまう。



(註1) 例えば,“量”を実数体上の1次元線型空間と規定するもの(Cf.小島順,““量の計算”を見直す",数学セミナー,1977.8−1978.1)。

(註2) Cf.前田隆一,“量の概念". In 新数学教育講座第2巻,吉野書房,1962.

(註3) 例えば,離散−対−稠密,連続−対−非連続,加法に関して対称−対−非対称(Cf.田村二郎,“量と数の理論",日本評論社,1978)。

(註4) 例えば“外延量-内包量”の発想。本論考の立場では,この発想は端的にナンセンスである(§2.4.1)。