4.2.6 数の系としてのND



 ND の要素に対しては,これを“倍”と読んだ上で,和と積(合成)を日常的に考えている。この二つの概念はつぎのように定式化される。

 m,n,p∈Nに対し,

(+m)+(+n)=+(m+n)
(−m)+(−n)=−(m+n)
(+m)+(−n)=(−n)+(+m) +p(m=n+pのとき)
−p(m+p=nのとき)
0 (m=nのとき)

と定義する。これは,r,s,t∈Nに対し

(r−s)+(t−r)=t−s

と定義するのと同じである(註1);あるいは,m,n,p,q∈Nに対し

(n−m)+(q−p)=(n+q)−(m+p)

と定義するのと同じである(註2)

 さらに,m,n,p∈Nに対し,

(+m)×(+n)=(−m)×(−n)=+(m×n)
(+m)×(−n)=(−n)×(+m)=−(m×n)

と定義する。これは

(n−m)×(q−p)=(m×p+n×q)−(m×q+n×p)

と定義するのと同じである(註3)

 ND は,この+,×に関して“数の系”になる。

 さらに,ND は加法+に関して可換群となる。実際,0が加法+の零元になり,また,+k=n−mと−k=m−nが互いに他の対称元(+に関する逆元)になる。

 x∈ND に対し,xの対称元をxと書くとき,以下が成り立つ(註4)
  1. (x)+(y)=(x+y)
  2. (x)×y=x×(y)=(x×y)
  3. (x)×(y)=x×y



(註1) (1) 先ず,この定義がr,s,tの取り方に依存していないことを示す。x=r−s=r′−s′,y=t−r=t′−r′のとき,(s+t′)+(r+r′)=(s+r′)+(r+t′)=(r+s′)+(t+r′)=(s′+t)+(r+r′),よって,s+t′=s′+t。
 (2) さらに,このように定義される+は可換である。実際,(t−r)+(r−s)=((s+t)−(r+s))+((r+t)−(s+t))=(r+t)−(r+s)=t−s。
 (3) +が“(r−s)+(t−r)=t−s”で定義されるとき,
(3.1) +m=r−s,+n=t−rのとき,s+m+n=r+n=tで,t−s=+(m+n)。
(3.2) −m=r−s,−n=t−rのとき,s=r+m=t+m+nで,t−s=−(m+n)。
(3.3) +m=r−s,−n=t−rのとき,
(3.3.1) m=n+pでは,s+p+n=s+m=r=t+nで,t−s=+p。
(3.3.2) m+p=nでは,s+n=s+m+p=r+p=t+p+nで,t−s=−p。
(3.3.3) m=nでは,s+n=s+m=p=t+nで,t−s=0。
(4) +が最初の形で定義されるときに
(r−s)+(t−r)=t−s
が成り立つことは,つぎのように場合分けして示すことになる:

r+n=tr=t+n
r=s+m(1)(2)
r+m=s(3)(4)

ここでは,(3) の場合だけを示しておく。
 先ず,r−s=−m,t−r=+n,s+n=r+m+n=t+m。そこで,
(4.1) m=n+pのとき,s=t+pで,(−m)+(+n)=−p=t−s。
(4.2) m+p=nのとき,s+p=tで,(−m)+(+n)=+p=t−s。
(4.3) m=nのとき,s=tで,(−m)+(+n)=0=t−s。

(註2) (1) 一般に (r−s)+(t−r)=t−s のとき,(n−m)+(q−p)=((n+p)−(m+p))+((n+q)−(n+p))=(n+q)−(m+p)。
(2) 逆に,(n−m)+(q−p)=(n+q)−(m+p) のとき,(r−s)+(t−r)=(r+t)−(s+r)=t−s。

(註3) 証明は,(註1)の証明に準じる。

(註4) (1) ((x)+(y))+(x+y)=((x)+x)+((y)+y)=0+0=0。
(2) ((x)×y))+(x×y)=((x)+x)×y=0×y=0。(x×(y))+(x×y)=x×((y)+y)=x×y=0。
(3) (2)より,(x)×(y)=((x)×y)=((x×y))=x×y。