5.2.3.1 数の系の実現



 “系列”の実現は,まだ“数の系”の実現ではない。数の系としての自然数の実現の内容は,系列への加法+と乗法×の導入──代数的構造の導入──である。

 自然数の代数の理由(契機)になっているものは,ひとの自然数の使用である。自然数の使い勝手の向上のために代数が案出される。

 自然数の代数は,自然数使用の形式を取り出したものである。自然数使用の際の出来事(観察される出来事)の抽象としてつくられるのではない。

 例えば,2+3は《2個と3個で5個になる》から5と等しいのではない。実際,《2個と3個で5個になる》素材を待たないでわれわれは2+3=5とするし,しなければならない。《2個と3個で5個になる》は《2+3=5》の理由ではなく,逆に結果である。2個と3個で何個になるかを求める実践の形式を抽象したものが加法+であり,そして2+3=5となるので,2個と3個は5個なのである。

 実際,先頭の自然数を1で表わし,自然数xの後者を succ(x),前者を ante(x) で表わすとき,自然数の和はつぎのように定義される:

x+1=succ(x)     
x+y=succ(x)+ante(y)

この定義は,つぎのように個数の合計を得る形式の取り出しになっている:


ここには素材を合わせたり数えたりが全く生起していないことに注意しよう。後々に唱えることと前々に唱えることの同時進行のみが起こっている。そして前々に唱えられなくなったとき,仕事が終わる。

 自然数の積の定義は“累加”の定義である。即ち,つぎのように定義される:
x×1=x        
x×succ(y)=x×y+x