Up 「論証」というゲームを理解させる  


教師が理解しておくべきこと
  1. 「論証」の概念の,本来的難しさ
    ──「論証」を初めて学ぶ者は,「論証」の形式に戸惑う:

      いったいこれはどんなゲームなのか?
      どんなときに行うゲームなのか?
      自分の「論証」は,はたして論証になっているのか?

  2. 「論証」が起こる要件
    ──「命題の論証」は,場面の意味や主体の意識・動機の点で,
      「与えられた問題を,正しく推理/推論して解く」とは違う。

    • 論証の必要性
      • 説明・説得しなければならない相手がいる。
      • 自らが納得する必要がある。

    • 論証したい・しなければならないと思う命題が,論証の対象になる。
      それはつぎのような命題である:
      • 基本的,重要,使用価値が高い
      • いろいろな場合で成り立つので,一般的になり立つのではないか?(なりたって欲しい) と思わせるもの
      • シンプル・美しい

  3. 「論証」の指導の構成/内容
    ──「論証」の指導は,つぎの指導で成る:

    1. 「論証」の意味
    2. 「論証」の方法論
    3. 「論証」のフォーム
    4. 論証の練習 (論証を身につける)

指 導
  1. 「論証」の意味
    ──「論証」の意味を,最初に理解させる。
      これができていなければ,「論証」の指導には入れない。

    • 確実性を得るために,「論証」ゲームを導入する:
      • 自分を論難しようとする者が,相手。
        論証は,相手の論難を退けるゲーム。
      • 自分自身が,「自分を論難しようとする者」になる。

    • 論証とは,厳格性・明証性によって,結論に導く自分の推論を相手に認めさせること。
      これは,つぎの2つでなる:
      1. 推論の出発点 (与件/命題/公理) を認めさせる。
      2. 推論を認めさせる。


  2. 「論証」ゲームをやってみる

    1. 複数で,つぎの役割ゲームを行う:
      A : 命題が「成り立つ」ことを述べる
      B : 「成り立つ」に「なぜ?」を問う。
      A : 「なぜ?」に対して,既に「成り立つ」がわかっていることを使って理由づける。
      B : 理由づけに使われた「成り立つ」に対して「なぜ?」があるときは,その「なぜ?」を問う。
      (これの繰り返し)
    2. 自分ひとりで,A, B の役割をやってみる。


  3. 「なぜ?」が問われるときの<疑い>に,2タイプある:

    1. 特殊から一般に,飛躍しているのでは?
    2. 説明に使っている根拠も,疑わしいのでは?

    この<疑い>に答える形は:

    1. 「特殊から一般に飛躍」の疑いに対しては,「一般表現」を用いる:

        文字の使用,一般的に見える図表示,等

    2. 「説明の根拠」への疑いに対しては,<根拠>の遡行を行う。
      そして,<根拠>の遡行が終わったところで,遡行の順序を逆転させ,起点とする命題から「だから」で降っていく。

       註 : 「理由づけ」では,つぎの推論規則 (「三段論法」) が用いられていることになる:
         ( P and (P ⇒ Q) ) ⇒ Q
       (読み方: P が真で,さらに P ⇒ Q が真ならば,Q は真 )

  4. 「論証」のフォーム
    ── 従来中学数学で教えられていた「仮定・証明・結論」のフォームは,学習者を混乱させる。証明しようとする命題の文言 (これには,仮定と結論が既に述べられている) との重複が生じるからである。

    「論証」フォームの指導は,つぎの内容で行う:

    1. 課題として提示された命題に対し,与条件 (仮定) と結論を確認する。
    2. 与条件 (仮定) と結論がわかりやすいように,命題を自分なりに整理して書く。
    3. 行をかえて,「証明」と書く。
    4. 行をかえて,「与条件から結論への推理」として,証明を書く。


  5. 「論証」の練習
    ──「論証」フォームを身につけさせる。