Up 「構成主義」の方法に無縁──思いつきの理屈で自足  


    数学は,構成主義を方法論にしている。 すなわち,数学的概念・命題をとことん還元したところから,体系の構築を開始する。

    最も還元したレベルは,形式言語である。 記号と文法を定めるところから,始める。
    つぎに真理値を導入し,推論規則を定め,出発点にする真理命題 (公理) を定める。
    以降,推論によって真な命題 (定理) を導き,定義によって新しい概念を導入するという形で,体系の構築が進行する。

    ユークリッドの『原論』は,この構成主義の古典である。
    Bourbaki の『数学原論』は 1930年代に開始された数学テクスト作成プロジェクトであるが,構成主義を学ぶのに最良の数学テクストは,以来ずっとこれである。


    数学の構成主義の方法は,数学をある程度専門的にやらないと,身につかない。
    数学の各主題は構成の中に位置づき,構築の順番に縛られている。 しかし,構成主義の方法とはこれまで無縁でやってきた者は,数学を博物学のように見てしまう。 すなわち,数学の各主題をバラバラに見て,単独に取り出す。
    そしてこんなふうに単独に取り出した主題Aから主題Bを導こうとするときは,決まって循環論法をおかすことになる。

    数学の方法論としての構成主義がわからない限り,循環論法は矯正されない。 そして,矯正されない循環論法は,数学における「モンスター」である。

    一般に,経験値の低い領域では,ひとは自分の思いつきの理屈で満足する者になる。 この領域で経験値を積むほどに,ひとは自分に懐疑的になり,謙虚になる。
    一見逆のようだが,事実はこの通りである。