Up 「1と見る」の数学  


    「1と見る」がどのような数学になるかを,ここで押さえる。

    量の系Q (例えば,重さ) の代数的構造を考える。
    Qの要素2つに対しては,和が考えられている。
    Qの要素q1とq2に対し,これの和をq12で表すとしよう。(「」は太字の+)

    Qの要素に対しては,数の系N (例えば分数) の要素の倍作用が考えられている。
    Qの要素qとNの要素nに対し,qのn倍をq×nで表すとしよう。(「×」は下付の×)

    Nの要素2つに対しては,和と積が考えられている。
    Nの要素n1とn2に対し,これの和と積をそれぞれ n1+n2 ,n1 × n2 で表すとしよう。

    数の+と×は,つぎの関係で条件付けられている (すなわち,これが+と×の定義):

      ×1 ×2 =q× (n1+n2)
      (q×1) ×2 =q× (n1×n2)

    そして,これらの意味をすべて込めて,この構造をつぎのように表すとしよう:
      ( (Q, ), ×, (N, +, ×) )


    以上で,量の代数的な構造を規定したことになる。
    このような数学に慣れていない読者には,これだけでも相当疲れてしまうかも知れないが,「1と見る」にまで行くにはまだ一山ある。

    すなわち,数の系 (N, +, ×) を素材にして,
      ( (N, +), ×, (N, +, ×) )
    をつくる。
    これは,量の構造をもつものになる──すなわち,量になる:
    • (N, +) の要素が,「量としての数」
    • (N, +, ×) の要素が,「量としての数」の倍作用素──すなわち「量の比」

    さらに,Q の要素gに対して定まるつぎの対応fが,( (Q, ), ×, (N, +, ×) ) と ( (N, +), ×, (N, +, ×) ) の間の同型対応になる。

      f : g ×

    さて,ここに出てきた「同型f」が「1と見る」である。 ──実際,gを1と見ているわけである。


    例えば,Qを重さの集合,Nを分数の集合,gを「グラム」としよう。
    教員は,生徒につぎのことをさせる:

      2gを,2にする。
      2gと3gの和を,2+3で計算する。
      2gの3倍を,2×3で計算する。

    このとき教員が生徒にさせていることは,実はつぎの計算 (式変形) である:

      f(g × 2 ) = 2
      f(g × 2 × 3) = f(g × (2 + 3) ) = 2 + 3
      f((g × 2 ) × 3) = f(g × (2 × 3) ) = 2 × 3