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ヒューマン・インタフェースの後発性



実現するかどうかわからないような道具の開発では,先ずメインフレームの製作が試みられ,周辺部,特にヒューマン・インタフェースの部分は後に回されます。さらにこの場合,道具の使用者が自分自身ないし協同開発者であり,そしてメインフレーム作成の過程でその道具に十分慣れてしまえば,不特定者のためのヒューマン・インタフェースの作成に労力を割こうとはしないでしょう。逆に,周辺部の強化でシステムが重くなってしまうことを嫌うでしょう。

これがまさに,数学の専門家集団の中で起こっていることです。ヒューマン・インタフェースへの顧慮を欠くことで,一般者から離れてしまっています。

ヒューマン・インタフェースは,不特定多数にその道具を広めようとか,特定の者を初心者として教育し自分の仲間に加えようと企てるときに,はじめて課題になります。即ち,〈教える〉が必要になるときに課題になります。

数学をする者と数学を教える者のスタンスの違いがここにあります。数学をする者の関心は数学のメインフレームにあり,数学を教える者の関心は数学のヒューマン・インタフェースに向かいます。

今日,身の周りのどのような物も直接的ないし関接的に数学的処理をくぐってきています。生活のスタンスに,《数学に関接しない》というスタンスはもはやあり得ません。

ここでわたしたちは,つぎの二つのスタンスの対立に着目しましょう:

  1. 数学を使って生産する
  2. 数学を使って生産されたものを消費する

実際,“数学離れ”は《人は自らを消費者の側に固定することを選んでいる》という現象です。

生活における数学の遍在と「数学離れ」の同時進行は,1.と 2.の二極化の進行です。

この二極化の進行は,一般教育としての数学教育がますます無力なものとして顕在化することの進行です。そして数学教育は,《数学のヒューマン・インタフェースを開発する》という課題に対して確かにこれまで無力であり続けてきました。

よくよく銘記するとしましょう。《一般教育としての数学教育の存亡が懸っている》という意味で数学教育のいま最も重要な課題は,数学のヒューマン・インタフェースの構築です。この課題を前にしては他の課題が「課題解決のために立てた課題」のように矮小化して見えてしまう程,これは突出した課題です。