Up 「測度」がない──「三角形・円」の理由 作成: 2013-07-18
更新: 2013-07-18


    ユークリッド幾何学は,現代数学の眼からこれを見ると,きわめて独特な幾何学ということになる。
    そして,この「独特」をつくっている特徴の最も大きなものが,「測度 (measure)」がないということである。

    幾何学に「測度」がないことは,不都合であり,そもそも異常である。
    実際,幾何学は「測度」無しには済まない。
    では,ユークリッド幾何学は,「測度」をどのように処理しているのか?
    「三角形・円」で代用しているのである。

    実際,ユークリッド幾何学の「三角形・円」の話を素直に「三角形・円」の話として受け取っていたら,間違いである。
    多くの場合,それは「測度」の話である。


    「三角形・円」が「測度」の代わりに用いられるということから,自明/簡単な命題の証明に大きな定理が使われるという事態に,しばしば出会うことになる。
    そしてこのときには,循環論法を犯しているのではないかと,危ぶむことになる。

    例として,つぎの命題を考える:
      「二等辺三角形の底角は等しい」

    この証明は,つぎのようになる:

      二等辺三角形の頂角の二等分線は,この二等辺三角形を二つに分ける。
      二つの三角形は,「2辺夾角相等」を以て合同である。
      よって,もとの二等辺三角形の底角は等しい。

    あるいは,つぎのようになる:

      二等辺三角形の頂角と対辺の中点を通る直線は,この二等辺三角形を二つに分ける。
      二つの三角形は,「3辺相等」を以て合同である。
      よって,もとの二等辺三角形の底角は等しい。


    ここで,つぎの素朴な疑問になる:

      「二等辺三角形の底角は等しい」は,まったく自明な命題である。
      実際これは,証明するというようなものではない:
        同じ長さの線分をつぎのように接合する。
        そして,開いている方の二つの端点を線分でつなぐとする。
        二つの端点には,このときつくられる二つの角を異なる大きさにするような契機はない。 ──実際,二つの端点は,区別がつかない。
        よって,二つの角は等しくなる他ない。
      この自明な命題を「三角形の合同」で証明するというのは,先後の転倒をやっているのではないか?
      すなわち,「二等辺三角形の底角は等しい」は,「三角形の合同」より前に出てくる命題であって,「三角形の合同」は「二等辺三角形の底角は等しい」をこれの証明に用いているのではないか? ──循環論法を犯しているのではないか?》


    「二等辺三角形の底角は等しい」は,「線分の長さ」「角の大きさ」の「測度」が主題である。
    しかし,ユークリッド幾何学は「測度」をもたない。
    「測度」に依らずに線分の長さ,角の大きさの相等・相違を導くのに,「三角形の合同」を用いる。
    別の命題の証明では,これと同様の趣旨で,「円」が登場してくる。
    これがユークリッド幾何学というものであるが,現代数学の方から見れば,どうしても「倒錯」を見てしまう。
    しかし,この「倒錯」こそが,ユークリッド幾何学であり,ユークリッド幾何学の真骨頂なのである。


     註 : 循環論法なのかどうか,実際を知ろうとなれば,『ユークリッド原論』にあたることになる。
    『ユークリッド原論』は,<規約>の体系である。 作業は,この規約の構成を調べることである。
    留意すべきは,この作業は,『ユークリッド原論』という<規約>に付き合うことであり,事の<真偽>を求めることとは違う,ということである。