Up はじめに  


    数学テクスト全般に言えることであるが,「線型代数」の場合も,入門者にとってのよいテクストがなかなか存在しない。
    入門テクストの条件で重要なものは,つぎの2つである:
    1. 主題の構成が,論理的に正しい。
    2. 新しい数学的概念・表現が現れるたびに,その意味 (出自・絵) を伝えている。

    「線型代数」のテクストには,つぎの順序で構成しているものがある:
        「行列・行列式」→「線型空間・線型写像」
    これは,条件「1. 主題の構成が,論理的に正しい」に反している例である。

    この種のテクストは,「入門書」と謳っている場合にも,たいてい「やさしい・わかりやすい」を履き違えている。
    入門者にとって,数学テクストの難しさの第一番目は,「意味不明」である。
    「やさしい・わかりやすい」の実現としてしなければならないことは,テクストに出てくる概念・表現の一つ一つに対し,その<意味>をていねいに伝えることである。
    これが,条件「2. 新しい数学的概念・表現が現れるたびに,その意味 (出自・絵) を伝えている」である。
    現前の「入門書」は,これができていない。
    できていないのは,「やさしい・わかりやすい」がどういうことか,わかっていないためである。

    そこで,条件1, 2 に準拠の「線型代数」入門テクストを,ここに供する。
    読者が学習することは,大きいカテゴリーではつぎの2つである:
    1. 主題の構成はどのようになっているか?
    2. 各主題の意味は?