Up 次元とベクトル表現  


    数学は,<構成>である。
    どの概念も<構成>の中にある。
    概念の意味を理解することは,<構成>の中でのその概念の位置を理解することである。

    数学をやっていない人は,このことがわからない。
    そこで,概念の一つの相を切り取って,それがこの概念の意味だと唱える。
    学校数学はこんなふうであって,めいめい勝手な思いつきを言い合う世界になっている。

    ベクトルは多元量だ」みたいのも,この種の思いつきの発言である。
    この思いつきがどこから出てくるのかを説明すると,これは「ベクトルの表現」の話になる。 以下,この内容を簡単に述べることにする。


    ベクトルを考えるときは,暗黙に空間を考えている。
    「直線移動」にも,つぎの違いがある:
      直線上方向自由──1次元ユークリッド空間の中の直線移動
      平面上方向自由──2次元ユークリッド空間の中の直線移動
      空間内方向自由──3次元ユークリッド空間の中の直線移動
    数学だとさらに,次元を拡張・一般化した論述にまとめることになる。

    そこで「ベクトルの表現」が主題になるとき,その表現も次元に依存したものになる。
    「ベクトルの表現」の手法は,つぎのようになる。

    話を簡単にするために,2次元ユークリッド空間の中の直線移動を考えよう。
    先ず,空間の基底{1, 2}をとる。
    この基底に対して,直線移動は,つぎの形──「1, 2 の線型(1次)結合」──に一意的に表現される:
        1 ×12 ×2

    ここで基底{1, 2}を固定して考えることにすると,直線移動は2つの数 (スカラ) の組 (n1, n2) で表されることになる。
    ベクトルは多元量だ」のことばは,このレベルのベクトルの相をとらえ,これがベクトルの意味だと言っているわけである。

    ベクトルは多元量だ」を言う者は,定めし「行列」の概念もごっちゃになっている。
    「行列」の意味 (<構成>の中での「行列」の位置) は以下で説明しているので,確認されたい: